[2023_03_30_16]ウクライナが「劣化ウラン戦争の戦場」にされる (下) NATOもロシア軍も保有する劣化ウラン弾とは 有害な劣化ウラン弾が使用される理由は 「化学毒性と放射性毒性」により人体・土壌への汚染 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2023年3月30日)
 
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ウクライナが「劣化ウラン戦争の戦場」にされる (下) NATOもロシア軍も保有する劣化ウラン弾とは 有害な劣化ウラン弾が使用される理由は 「化学毒性と放射性毒性」により人体・土壌への汚染 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 
◎なぜ、放射性物質ウランを主成分とする兵器が使用されるのか

 劣化ウラン弾が目標物に当たると爆発的に燃焼し、粉じんになった劣化ウラン酸化物の細かい粒子が空気中に拡散します。
 劣化ウランで作られた兵器の内、もっともポピュラーなのは貫通体です。
 比重が重く(鉄の2.5倍、鉛の1.7倍)同じ砲で撃てば質量に比例した運動エネルギーを持つため、鉛などよりも射程が長くなり、安定して飛翔します。
 さらに目標物に衝突した際にも、大きなエネルギーを持つため、貫通力が大きくなります。

 特に劣化ウランの場合、1200度で溶ける性質があり、装甲板などに当たると浸潤する際に溶け始めます。
 これが潤滑効果を持つため貫徹力が上がります。
 これを「セルフ・シャープニング効果」といいますが、要するに自ら鋭敏化しつつ浸潤するわけです。
 大きな運動エネルギーを持つ弾体が目標物に命中すると、弾体は浸潤しながら圧縮されます。この圧縮時に起きる金属元素結合が変形して熱を発します。その熱でウランは溶け出すのですが、比較的低温(同様の効果を持つタングステンの融点は3000度)で溶けることが、効果を大きくします。
 そのうえ、金属は液化した後に貫通し、車体内部に飛び散ります。高温の金属は空気中の酸素と激しく反応して燃焼します。これが燃料や弾薬を満載した戦車の場合、爆発してしまいます。
 このような兵器を「徹甲焼夷弾」というのは、このためです。
 なお、このような砲弾のうち戦車砲で射撃する徹甲焼夷弾のことを特に「装弾筒付翼安定徹甲弾」といい、総称として「APFSDS」(Armor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabot)と書きます。
 なお、重い比重を応用して装甲板として使うケースもあります。戦車などの防護版として劣化ウランを使用した装甲板が開発されていますが、放射線を出すこと、攻撃を受けると劣化ウランの粉じんが飛び散ること、重いことでかえって運動性能を阻害することなどから、現在ではほとんど使われていないようです。

◎劣化ウランの害毒

 劣化ウランの粉じんを吸い込んだり、破片が体に刺さるなどした場合、重金属の化学的毒性により腎臓などの臓器を損傷するとともに、放射線障害によりガンなど様々な疾病を引き起こします。また、土壌などに付着し、半永久的な環境汚染を引き起こします。
 これはウラン235の濃度が低くなったといっても、残りのウラン238もれっきとした放射性物質である以上、否定できることではありません。
 例え放射線強度がウラン235よりも低くても(約7.6分の1)それなりに放射性毒性はあります。また、重金属はなんであれ(鉛や水銀を考えよ)化学毒性を持ちます。
 ウランも例外ではありません。体内に一定量取り込まれれば、重篤な重金属中毒を引き起こし、特に循環器系統や泌尿器系統に害をもたらします。
 これの相乗効果で、劣化ウランの汚染地帯では病が多く発生しています。
 また、重金属と放射性毒性は特に胎児に大きな影響を与えることはよく知られたことです。
 湾岸戦争やイラク戦争のような住民のいるところで大量に使用されたケースでは、生まれてくる子どもたちに先天性疾患を多発させ、小児白血病も沢山確認されています。
 もちろん、農産物などへの影響も大きく、土壌の汚染が酷ければ生産も居住も困難です。
 ウランの除去が進まなければ放射性毒性は半永久的に続きます。
 こうしたことから、国連では何度も廃止を求める決議が提案され、その都度圧倒的多数の賛成で継続した調査研究が求められています。
 クラスター爆弾のように廃絶条約の成立には至っていませんが、廃絶を求める声は中東諸国を中心に圧倒的多数を占め続けているのです。
 しかし先に述べた高い戦闘効果から、米国を中心としたNATO軍、ロシア軍、中国軍、その他の軍隊が依然として主力として保有し続けています。
 ウクライナ戦争では、とうとう、双方が劣化ウラン弾で撃ち合う可能性がある状況になってしまいました。
 このような戦闘が、一帯誰に大きな被害をもたらすか、論を待つまでもありません。
 NATO軍やイギリス軍が、ウクライナのために戦車や戦車砲弾を送っているのではないことが、あからさまに露呈した事件の一つだと思います。
 そろそろ「軍事援助」「支援」なるものの実態と現実を、日本でも考えなければならない段階に達していると思います。

※前回(3/29発信【TMM:No4730】)の原稿の一部で計算誤りがありましたので、以下に訂正いたします。

正: *天然ウラン100トンから5%の濃縮ウランを得る際に、0.25%の劣化ウランが出る場合、製品ウランは約9.705トンに対して、劣化ウランは90.295トンになる。この時の分離作業単位は76.90トンSWU。

誤: *天然ウラン100トンから5%の濃縮ウランを得る際に、0.25%の劣化ウランが出る場合、製品ウランは約8.5トンに対して、劣化ウランは91.5トンになる。
KEY_WORD:ウクライナ_原発_: