[2023_03_11_03]原発事故の教訓はどこへ…原発回帰を強める岸田政権 不十分な議論、再生可能エネルギーに消極姿勢(東京新聞2023年3月11日)
 
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原発事故の教訓はどこへ…原発回帰を強める岸田政権 不十分な議論、再生可能エネルギーに消極姿勢

 東京電力福島第一原発事故から12年が経過し、岸田政権が原発回帰を強めている。政府が封印してきたリプレース(建て替え)や60年超の運転容認を決定。岸田文雄首相は、ロシアのウクライナ侵攻などを受けたエネルギー価格の高騰などを理由に挙げるが、国会で十分な議論をせず、昨年の参院選でも国民に説明していない独断による大転換だ。事故を教訓に推進してきた再生可能エネルギー普及の姿勢にも疑問符が付いている。(大野暢子)

 ◆「リプレース」「60年超」独断で決定

 首相は今月3日の参院予算委員会で、原発の必要性に関し「エネルギーの安定確保と脱炭素は世界的な課題だ。選択肢の1つとして、原子力に向き合うことを決断した」と強調した。
 政府は昨年12月、原発のリプレースや運転期間の延長容認を盛り込んだ新方針を決め、今年2月に閣議決定した。運転延長を巡っては、政府の原子力規制委員会で地質学者の石渡明委員が安全性への懸念から反対を表明。最終的に多数決で了承という異例の経過をたどった。
 野党は「拙速だ」と批判したが、首相は「専門家と100回以上議論した。会議のありようにも不備はなかった」と取り合わなかった。
 原発事故後の政府方針からは、原発依存からの脱却と再エネ普及を進める意思が読み取れる。2014年の国の第4次エネルギー基本計画(エネ基)では、事故前の3次計画(10年)で示された新増設の推進が消え「可能な限り原発依存度を低減する」と明記。「再エネの導入加速」も記し、18年の5次計画は「再エネの主力電源化」を掲げた。
 前提としていたのは、新規制基準に適合した原発の再稼働は認めても、運転期間が「原則40年、最長60年」に達した原発は廃止するという姿勢だ。新増設やリプレースについても政府は「想定していない」という立場を貫いてきた。
 ひっくり返したのは首相。参院選を終えた直後の昨年8月、唐突にリプレースの検討を表明した。それから約7カ月。エネ基の方針は骨抜きになっている。

 ◆再エネ「政府の本気度足りない」

 立憲民主党は18年、他の野党とともに原発の再稼働禁止や再エネへの抜本的転換を明記した「原発ゼロ基本法案」を国会に提出した。与党の反対で審議されず、衆院解散に伴い廃案になったが、泉健太代表は「再エネを伸ばしていくのが本筋」と主張する。
 政府が21年に改定したエネ基の6次計画でも、原発のリプレースや運転延長は盛り込まず、再エネは主力電源化へ倍増という目標を掲げている。21年度の全電源に占める再エネ比率は約2割で、倍増なら4割台が目立つ欧州諸国に迫る。しかし、首相は「日本は山と深い海に囲まれ、再エネ適地が少ない」との考えを示すなど、原発に比べて消極的な発言が目立つ。
 自然エネルギー財団の大野輝之常務理事は、原発新設コストの高騰や建設期間の長期化を挙げ「原発推進が脱炭素に貢献し、電力価格が安定するという政府の説明は、根拠に乏しい」と指摘。原発・火力依存の体制を温存しようとする姿勢が再エネの普及を遅らせているとして「足りないのは再エネ適地ではなく、政府の本気度だ」と語った。
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