[2023_03_03_08]地球の「内核」は磁石の源 (島村英紀2023年3月3日)
 
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地球の「内核」は磁石の源

 登山やハイキングで使うのが手持ちの磁石だ。これは地球全体が磁石になっているから使える。一方、地球が磁石になってくれているから私たちをはじめ地球の生物を太陽や宇宙から降り注ぐ危険な粒子から守ってくれているのだ。
 地球が磁石になっているのは液体で直径が地球の半分もあって地球深部にある「外核」のせいだ。さらに内側にあって直径1200キロ、月の大きさの75%ほどの固体の「内核」から放出される熱によって液体の外核で対流が起きて、磁力を生み出すダイナモとして機能するようになるメカニズムがあるからだ。
 地球の奥深くにある溶けた鉄の球は人間をはじめ地球上の生物に深くかかわっている。
 地球の外核は半径約3540キロで火星ほどの大きさ。鉄とニッケルが主成分で、地球の質量の約3分の1を占める。
 その内核が逆に回り始めたという論文が1月に出た。いままで地球全体で同じ向きに回っているに違いないと考えられていた。
 この種の研究は精密な観察を要する。この論文では内核の動きを追跡するために、過去60年間に発生した地震波を分析した。
 論文の結論は「内核は2009年ごろにほぼ停止し、その後、逆回転し始めた」というものだ。「内核は、地表に対して前後に動いていると考えられる」とし「1回の往復運動の周期は約70年」で、約35年ごとに回転方向が変化しているという。次に変わるのは2040年代半ばという。
 地球の自転速度はだんだんと遅くなっていく。100年間で1.8ミリ秒(1000分の1秒)程度と換算されている。だが1990年頃には地球は24時間より約2ミリ秒長くかかって1回転していたが、2003年の自転速度は24時間プラス約1ミリ秒だった。2003年のほうが自転速度は速くなっている。この現象を説明する有力なものが、自転とは異なる内核の回転速度に違いない。
 この研究でいちばん精密さで役に立ったのは、なんと地下核実験だったという。地下核実験では、地震のように地球深部まで伝搬する巨大な振動が発生する。しかも実施の地点、時刻、強度に関する正確な記録があるため、地球内部の精密なデータを得ることができる。
 最近では、地下核実験は国際的な批判があるため行われなくなった。
 学者の中にはこの研究に反対するものも多い。
 たとえば内核の回転方向の変化は約6年ごとに起きているという学説もあるし、内核は2001〜2013年に大幅に動き、それ以降は静止しているという説もある。
 内核の往復運動の周期は今回発表された70年ではなく、20〜30年だとする学説もある。
 このため地球深部の研究をさらに進めるためには、予測できない地震の発生に頼らざるを得ず、この先の進展には望めないかもしれない。
 地球の奥深くの研究はまだよくは分かっていない。内核の発見も近年のことだ。さらに内部に 別の層があるという研究も発表された。
 まさかこの研究のために地下核実験を再開するわけにもいくまい。
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