[2023_02_28_05]「原発を稼働すれば電気代が下がる」は本当なのか(alterna(オルタナ)2023年2月28日)
 
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「原発を稼働すれば電気代が下がる」は本当なのか

 日本政府は「GX実現に向けた基本方針」に、原発の新規建設や60年以上の運転延長などを盛り込んで、閣議決定した。これまでの原子力政策から大きく方向転換し、原発を積極利用する内容だ。政府は原発推進の理由の一つに、「エネルギーの安定供給」を挙げるが、原発を稼働すれば電気代は下がるのだろうか。(オルタナ副編集長=吉田広子)
 「政府は『GX実現に向けた基本方針』に対するパブリックコメントを募集していたが、『方針案』ではなく、政府が決定した『方針』として提示していた。国民の意見を聞くつもりが全くないのは明らかだ。民主主義を軽視していると言わざるを得ない」。自然エネルギー財団の大野輝之常務理事は、憤りを語る。
 日本政府は、原子力発電を安定した「ベースロード電源」と位置付ける。2030年度の電源構成は、再生可能エネルギーが36〜38%程度、原子力発電が20〜22%程度、LNG火力発電が20%程度、石炭火力発電が19%程度、石油火力発電が2%程度、水素・アンモニアによる発電を1%程度と見込む。
 しかし、自然エネルギー財団の石田雅也・シニアマネージャーは、「『原発は安定している』といわれるが、稼働は不安定だ。再稼働した原子炉9基の年間稼働率(2016〜2021年)は、75%に満たない場合が多い。75%は3カ月停止しているということ。原発に依存するのは危険だ」と指摘する。
 発電コストも、原発が最も高い24.1円/kWh(既存の発電設備の事業費※)だ。続いてガスが18.4円/kWh、石炭が16.1円/kWh、陸上風力が15.6円/kWh、洋上風力が13.3円/kWh、太陽光は最も安い9.7円/kWhだ(出典:財務省、経産省、電力広域的運営推進機関、大島堅一・龍谷大学教授のデータを基に自然エネルギー財団が作成)。
※事業費は再稼働費(安全性強化など)、燃料費、運転維持費を含む。初期投資は回収済
 「ランニングコストだけを考えると、一見、原発が安いように思える。しかし、安全対策費として1000億円程度が見込まれるなか、それを勘案した場合にどうなるのか。税金も投入される。政府は『原発が安い』とする根拠を明確に提示しなければならない」(石田シニアマネージャー)
 政府が開発を進めるという「次世代革新炉」に対しても、「従来の加圧水型の軽水炉を改良したもので、決して『革新』といえるものではない。そもそも運転開始が2040年代ころになるので、貢献度は低い」(石田シニアマネージャー)。
 カナダ、ドイツ、英国、米国、イタリアでは、2035年に自然エネルギーの割合が7〜8割程度に上る見込みだ。「世界的に見ても、すでに原発は主力ではなく、補完的な電源だ。日本と各国の差は拡大していくばかりだ」(大野常務理事)。
 そもそも、原発を巡っては放射性廃棄物の問題が山積みだ。2027年ころから、高浜、玄海、大飯などで使用済み核燃料の貯蔵量が限界を迎える。政府は高レベル放射性廃棄物の「地層処分」の計画を進める意向だが、処分地はいまだ決まっていない。
 日本政府が原発推進の拠り所にしているEUタクソノミーでさえも、高レベル放射性廃棄物の処理施設を2050年までに稼働させる「詳細な計画を策定」することを条件に、原発を「持続可能な技術」としている。
 石田シニアマネージャーは、「最終処分が決まっていない状態での原発推進はありえない。原子力の拡大を目標に掲げること自体が、再エネの推進を阻んでいる。これから政策を変えるのは難しいが、国際競争にさらされている企業は危機感を感じているはずだ。コーポレートPPAなど、企業は自主的に再エネへの転換を進めてほしい」と強調した。
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