[2022_10_24_06]福島第一原発、建屋水没させデブリ取り出す工法 変更繰り返した末、実現性見通せない案 事業難航の象徴(東京新聞2022年10月24日)
 
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福島第一原発、建屋水没させデブリ取り出す工法 変更繰り返した末、実現性見通せない案 事業難航の象徴

 06時00分
 東京電力福島第一原発の事故収束作業で最難関とされる溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しに向け、原子炉建屋の地下を含めて構造物で囲い、丸ごと水没させる工法が浮上している。前例のない大規模工事が必要で、実現には疑問符が付く。デブリ取り出しはこれまでも方針変更を繰り返しており、雲をつかむような案が出てきたこと自体が難航を象徴する。(増井のぞみ)

 ◆「自信がない」専門家ですら弱気

 「世界で初めて。技術的に相当困難」「自信がない」「これを見て『有望』と言われても困るでしょう」
 事故収束に向けた技術支援を担う原子力損害賠償・廃炉等支援機構の池上三六(いけのうえさんろく)・廃炉総括グループ執行役員は、3号機での新工法を盛り込んだ提言を説明する11日の記者会見で、弱気な発言を繰り返した。
 新工法は、タンカーの船体工事に使われる「船殻工法」を応用。水圧に強い構造物で囲うのが特徴で、機構は建屋の地下にトンネルを掘り、鋼鉄製の四角い部屋が連なった構造物で建屋全体を取り囲むことを検討している。
 実現すれば、建屋に満たした水で放射線を遮ることができ、作業の安全性が高まる。一方で、建屋を水没させると、デブリに触れた高濃度汚染水が15万トンほど発生する見通し。敷地内で処理水を保管するタンク約150基分に相当し、漏えい事故が起きたときのリスクは計り知れない。

 ◆まず「冠水」1度やめてまた「冠水」

 政府や東電は2011年の事故当初、原子炉格納容器に水を満たし、水中でデブリを取り出す「冠水工法」を計画。しかし、デブリがある1〜3号機格納容器はいずれも損傷しており、水を入れても容器外に漏れ出てしまう。高線量で人が近づけず、どこが損傷しているのか今もはっきりしない上に、遠隔操作での補修も難しい。
 17年に水を張らないまま取り出す「気中工法」に転換し、2号機で23年度後半の試験的な取り出し開始を目指す。ただ、デブリへの接触のしやすさを優先し、狭い場所にロボットアームを入れる工法にしたため、一度の操作で1グラムほどしか取り出せない。デブリは3基で計880トンあると推計され、この工法で取り出しを完遂させるのはほぼ不可能だ。
 そこで機構は、3号機では大量のデブリを取り出す工法の検討に切り替えた。デブリを塊で切り取るなど膨大な放射性物質の飛散を伴う作業が見込まれ、水で遮らなければ危険が大きい。格納容器に水を満たすことはできないため、さらに外側の建屋全体を水没させる案が浮上。いわば大規模に形を変えた冠水工法だ。

 ◆11年たっても現実味がないまま

 1号機はデブリが格納容器の広範囲に散らばっているとみられ、取り出し方法は白紙。2号機も当初は21年内に試験的な取り出しが始まるはずだったが、ロボットアームの準備が遅れて2度の延期を繰り返した。事故から11年半が過ぎても、デブリの取り出しは現実味がないままだ。
 提案された新工法に対し、東電の広報担当者は「まだアイデア段階」と実現性に踏み込もうとしない。機構の提言さえも暗い見通しを示唆し、こう締めくくられている。「判断基準を満たさなかった場合、課題の抽出からやり直し」

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