[2022_07_11_03]石川県能登地方の地震活動に関する「地震調査委員長見解」(地震調査委員会2022年7月11日)
 
参照元
石川県能登地方の地震活動に関する「地震調査委員長見解」

 令和4年7月 11 日
 地震調査研究推進本部
 地震調査委員会

 石川県能登地方の地震活動に関する「地震調査委員長見解」

 活発な地震活動が継続している石川県能登地方の地震活動や地殻変動について、関係行政機関、大学等による調査観測結果やこれまでの研究成果を整理・分析し、本日(令和4年7月 11 日)の地震調査委員会で総合的に議論しました。

 石川県能登地方では、2020 年 12 月から地震活動が活発になっています。2022 年6月 19 日には、一連の地震活動において最大となる M5.4 の地震が発生し最大震度6弱を観測しました。この他にも、2021 年9月 16 日の M5.1 の地震により最大震度5弱、2022 年6月 20 日の M5.0 の地震により最大震度5強を観測するなど、強い揺れを観測する地震が複数回発生しています。一連の地震活動は、現在のところ減衰する傾向は見えず、依然として活発な状態が継続しています。

 このため、地震調査委員会としての情報発信をより強化する必要があると考え、これまでに取り組んできた地震活動の評価に加え、「地震調査委員長見解」として、関連する情報を発信することとしました。

 [これまでの観測データ及び解析結果等について]

 地震活動は一般的に、規模の大きな地震の発生後にそれより規模の小さな地震が続く活動(本震−余震型)と、今回の石川県能登地方の地震活動のように同規模の地震が長期間継続する活動があります。前者は、最初の規模の大きな地震(本震)の直接の影響によりその後に地震活動が活発になります。一方、後者は、地震活動域に外部から何らかの力が作用することで地震活動が活発になっている可能性が考えられ、地震活動を統計的に解析(*1)することで、その様な作用の度合い(背景地震活動度)を推定することができます。この解析によると、今回の一連の地震活動は、全体としては依然として背景地震活動度の高い状態が継続しています。

 地殻変動の観測及び解析結果を踏まえると、地震活動域周辺の地下に、現在の地殻変動及び地震活動を発生させている原因となるものが存在していると考えられます。その可能性として、球状圧力源(*2)、開口割れ目(*2)、断層すべり(*2)等を考えることができます。しかし、現在の観測データ及び解析結果からは、いずれの可能性も考えることができ、原因を1つに特定することは困難です。

 今回と同様に、同規模の地震が長期間継続するような地震活動は、日本国内においてこれまでにも時々見られています。それらの中には、1年以上継続した地震活動もあります。また、これまでの研究で、活発な地震活動の原因として流体の関与が指摘されている地震活動もあります。

 今回の地震活動域周辺の電気伝導度(*3)の分布を見ると、一連の地震活動域及びその深部に、より電気を通しやすい領域が存在していると推定されます。また、地震波による解析では、南側の地震活動域の最も深い場所付近に、地震波を反射する領域が推定されます。能登半島北部での温泉水の分析からは、何らかの流体が関与している可能性があると考えられています。
 これらの結果と今回の地震活動の詳細な震源分布、これまでに国内で見られた長期間継続する地震活動における研究成果を踏まえると、今回の地震活動や地殻変動に流体が関与している可能性が考えられます。しかし、現在の観測データ及び解析結果からは、流体がどのように関与しているかはわかっていません。

 今回の地震活動域周辺には、地震調査委員会が長期評価している活断層はありませんが、能登半島の北岸沖の海底には、複数の北東−南西方向に延びる南東傾斜の逆断層が存在し、活断層であることが知られています。これらの活断層は過去に繰り返し活動し、今後も再び活動すると考えられます。今回の地震活動がこれらの活断層へ与える影響は不明ですが、活断層が存在することに留意する必要があります。
 なお、「平成 19 年(2007 年)能登半島地震」は、これらの海底活断層の最も西側の領域が活動したものと判断されています。
 地震調査委員会では、令和4年3月に「日本海南西部の海域活断層の長期評価」を公表しました。また、現在近畿地域の活断層の長期評価を進めているところです。他の領域の活断層についても順次評価を進めていきます。

 能登半島北部では、漸新世〜中新世(*4)の火山活動が知られていますが、第四紀火山(*5)の存在は知られていません。また、この地域の温泉水の分析結果からは、マグマが関与した積極的な証拠は見つかっていません。

 地震活動や地殻変動を発生させている原因については、現在までの観測データや解析結果、これまでの研究成果から、いくつかの可能性を考えることはできるものの、特定するには至っていません。また、活断層との関連等、現時点で不明な点もあります。これらについては、今後の調査観測結果等を踏まえさらに検討を行う必要があります。

 [防災上、留意して頂きたいこと]

 能登半島の周辺では、「平成 19 年(2007 年)能登半島地震」など、これまでにも M6程度以上の被害を伴う規模の大きな地震が何度も発生しています。

 今回の地震活動域周辺では、沿岸部や河川沿いなどで揺れやすい地盤となっている地域があります。2022 年6月 19 日の M5.4 の地震により震度6弱を観測した地点の周辺にも揺れやすい地盤が広がっています。令和3年3月に地震調査委員会が公表しました「全国地震動予測地図 2020 年版」では、お住まいの地域の地盤の揺れやすさを確認することができます。
 地震活動には減衰傾向が見えず、依然活発な状態が継続していること、地殻変動も引き続き継続していることなどを踏まえて総合的に判断すると、一連の地震活動は当分続くと考えられます。地震の規模やお住まいの地域、特にこれまでの地震で強い揺れを感じた地域、によっては今後も強い揺れに注意が必要です。また、海底で規模の大きな地震が発生した場合、津波に注意する必要があります。改めて、日頃からの地震への備えを確認することが大切です。

*1:地震活動を定量化する統計モデル(非定常 ETAS モデル)を用いた解析。このモデルは、背景地震活動度や余震の発生強度に対応するパラメータが時間変化すると仮定しており、長期間継続する地震活動の評価に活用することができます。

*2:観測された地殻変動量を説明できる変動源モデル。球状圧力源は、水などの蓄積により圧力が等方的(球状)に変化するモデル、開口割れ目は、入り込んだ水などにより亀裂が板状に開くように圧力が変化するモデルです。今回考えている断層すべりは、通常の地震と同様に断層面がすべる動きですが、すべりの速度が通常の地震に比べて極めてゆっくりであり、地震波を放射しません。

*3:電気伝導度とは、電気の流れやすさを表す指標です。一般に、水などが存在すると電気が流れやすくなります。

*4:約 3,400 万年前から約 500 万年前までの期間です。

*5:約 260 万年前から現在までに活動した火山です。

(後略)
KEY_WORD:NOTOHANTO_:NOTO_2022_: