[2022_12_08_03]原発「60年超」の行動指針案を了承 経産省の有識者会議 将来的な「上限なし」にも道(東京新聞2022年12月8日)
 
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原発「60年超」の行動指針案を了承 経産省の有識者会議 将来的な「上限なし」にも道

 経済産業省の有識者会議「原子力小委員会」は8日、政府が検討する原発活用策の行動指針案を了承し、政府方針の方向性が事実上定まった。「原則40年、最長60年」と規定された運転期間は、審査などで停止した期間を運転年数から除外して60年超の運転を可能にする。「一定期間後に制度を見直す」との方針も明記し、停止期間の除外にとどまらず、運転上限の規定そのものを撤廃することに含みを残した。(小野沢健太)
 東京電力福島第一原発事故後、政府が想定してこなかった原発の建て替えも盛り込み、原子力政策の大転換となる。小委は、岸田文雄首相が8月末のグリーン・トランスフォーメーション(GX)実行会議で検討を指示した後、5回の会合で議論を終えた。指針案は、エネルギー政策全体について議論する別の有識者会議に報告された後、年内に開くGX実行会議で政府方針として正式に決まる。
 運転期間を巡る小委の議論では、脱炭素社会の実現に向け「原則40年、最長60年」との規定を撤廃するべきだとの意見が多数を占めた。経産省は、老朽原発の長期運転を懸念する立地自治体の声などを受け、11月末の前回会合で、運転期間の制限は維持した上で実質的に60年超の運転を可能にする案を推した。
 このときも「必要に応じて見直す」との記載はあったが、今回の修正案には「仕組みの整備から一定期間後、必要に応じて見直しを行うことを明確化する」と記され、将来的な見直しが鮮明になった。
 この日の会合では、21人の委員のうち大半が経産省案を支持し、2人の委員が「進め方が拙速」などと反対。しかし、委員長の山口彰・原子力安全研究協会理事が「私の判断で対応する」と打ち切った。
 廃炉原発の建て替えでは、経産省の担当者が「跡地ではなく、同じ原発敷地内の別の場所に建てる」と説明した。

 ◆「2カ月で百年単位の方向性を決めてしまった」

 「実質的には運転期間の上限を撤廃したに等しい」。原子力小委員会の委員を務める松久保肇・NPO法人原子力資料情報室事務局長は8日の会合後にオンラインで記者会見を開き、委員長一任で了承された原発活用の行動指針案について怒りをあらわにした。
 指針案は「原則40年、最長60年」のルールを形式的に維持しつつ、60年超運転を可能にすることを明示。さらに「一定期間後に見直す」とルール自体の廃止への道を残した。松久保氏は「あたかも市民の反発に配慮したかのような言葉遊びはやめるべきだ」と指摘した。
 小委で原発に否定的な主張をしたのは、委員21人中、松久保氏を含めて2人だけ。「形だけ反対意見を聞いたというだけで、施策には反映されない。多様性のない議論だった。非常に不愉快」と、議論を主導した経産省を批判。「2カ月程度の非常に短い議論で、廃炉や放射性廃棄物の処分も含めれば百年単位の方向性を決めてしまったのは大問題だ」と憤慨した。
 脱原発を掲げる有識者などでつくる「原子力市民委員会」座長の大島堅一・龍谷大教授(環境経済学)も同席し「福島第一原発事故の教訓を忘却し、踏みにじった。原発は衰退産業で、いくらお金をかけても立て直すことはできない」と強調した。(増井のぞみ)
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