[2022_11_30_02]社説:原発の推進案 認められぬ拙速な転換(京都新聞2022年11月30日)
 
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社説:原発の推進案 認められぬ拙速な転換

 甚大な災禍を招いた11年前の事故の反省から、できるだけ原発に頼らないとしてきた日本の原子力政策を一気に転換しようとする内容だ。あまりに乱暴であり、到底認められない。
 経済産業省は、原発活用に向けた行動計画案を示した。「次世代型原発」の開発・廃炉を明記し、廃炉が決まった原発の建て替えを対象に進めるという。「原則40年、最長60年」としてきた運転期間も延長を可能にする。
 岸田文雄首相が「原発の最大限活用」へ「あらゆる方策の検討」を指示したのが8月。わずか3カ月で、長期的な原発利用に大きく踏み込んだ。
 今なお事故処理が続く東京電力福島第1原発の惨事を教訓に、政府がエネルギー基本計画に掲げた「原発依存度の低減」を空文化するような案である。
 2月に始まったロシアのウクライナ侵攻を受け、世界的に懸念されるエネルギー不足を大義名分に、原発推進へかじを切る姿勢は極めて危うい。
 原発が根本に抱える欠陥は何も解消されていない。不安に乗じたごり押しは、国民の原発不信を高めるだけだ。再考を求める。
 行動計画案は、原発の運転期間は原子力規制委員会の審査などで停止した期間を除外する形で、延長に道を開く。
 事務局資料には「将来の見直しを前提」といった記載もみられ、60年上限の撤廃へのステップとも読める。老朽原発の耐久性は未知数が多いとして設けたルールが、骨抜きになりかねない。
 さらに廃炉が決まった原発は、経産省が「革新軽水炉」と呼ぶ既存原発の改良型に建て替える対象とする。「まずは」建て替えと記述し、将来の原発新増設にも含みを残す。
 岸田氏の号令を受け、検討した経産省の審議会は、委員が「原子力ムラ」の住人や利害関係者に偏り、慎重派からは形式的に意見を聞いたにとどまる。
 事故以降、脱原発を掲げた民主党政権を経て、安倍晋三、菅義偉両政権でも原発の長期利用は封印されてきた。
 稼働で生じる「核のごみ」の処理は定まらず、災害などに伴う事故に加え、武力攻撃を受ける可能性も顕在化している。
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