[2022_11_26_04]老朽原発の圧力容器は何時破壊されてもおかしくない 老朽原発を酷使する恐怖を電力事業者は感じないのか 一瞬で破壊される「脆性破壊」の恐ろしさ (第三弾の2) 運転延長は原発の危険度を上げるだけ 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2022年11月26日)
 
参照元
老朽原発の圧力容器は何時破壊されてもおかしくない 老朽原発を酷使する恐怖を電力事業者は感じないのか 一瞬で破壊される「脆性破壊」の恐ろしさ (第三弾の2) 運転延長は原発の危険度を上げるだけ 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 
 ◎原子炉圧力容器の「脆性破壊」

 一般に、加圧水型軽水炉の場合は約320度、沸騰水型軽水炉の場合は約280度で運転しているから、この段階では脆性破壊の危険性はない。
 しかし圧力容器内の冷却材が抜ける事故が発生した場合、燃料(炉心)がむき出しになってしまうのを防ぐため、冷却材を投入しなければならない。この間わずか数十秒ということもある。
 従って、緊急炉心冷却装置(ECCS)で一挙に大量の水を投入する。温めた水を入れる余裕などないから、どんなに高くても30度ほどの水を入れることになる。
 その時、厚さが20センチほどの圧力容器の内側と外側で大きな温度差が生じ、そこに亀裂があれば、ECCSの水で冷やされた炉壁が破壊してしまう(脆性破壊する)おそれがある。
 老朽化し、鋼鉄が脆(もろ)くなっていて(脆化が進んでいて)、緊急時には耐えられなくなっている心配があるのだ。
 圧力容器が「脆性破壊」を起こした場合、小さなヒビで済むということはないだろう。
 大きく割れた容器からは冷却材が噴出し、炉心は空炊きになる。運転中に起きるのだから、スクラムが掛かっていたとしても熱量は膨大である。
 停止直後で、熱出力の2パーセントもの熱量があり、89万キロワットならば3万5千キロワットもの熱量が残っている。
 冷却が出来なければメルトダウンは避けられない。

 ◎関電高浜1号機の「脆性遷移温度」は99度

 現在、40年を超えた原発の内、加圧水型軽水炉では美浜原発3号機が再稼働し、さらに2基、高浜1、2号機が再稼働の準備を進めている。
 既に40年を超過しており、「脆性遷移温度」がどのくらいまで上がっているのかが懸念されるのだが、試験片を随時取り出して調べることはできない。数に限りがあり、好きなときに試験できるわけではない。また、定期検査中でなければ試験は出来ない。
 このため、「脆性遷移温度」を予測する式があるのだが、これが信用できない。
 脆化を予測するのは非常に困難であり、さまざまな要因がからむ複雑な現象であるからだ。
 1991年に規格化された国内脆化予測式は、不純物含有率や累積中性子照射量から脆化を予測するもので、時間当り中性子照射量を実際の何倍にも高める「加速試験」に基づいていた。(注2)
 ところが原子炉容器内に設置された監視試験片による評価結果は、この予測を大きく超えてしまった。同じ累積照射量でも時間当り照射量の少ない方が、脆化の進み方が早くなっていることが分かった。
 海外でも、1966年に運転を開始し1977年に廃炉となって解体されたグンドレミンゲンの原子炉圧力容器鋼材では、加速照射された保存材より著しく脆化が進んでいた。
 2007年に改訂された国内脆化予測式では、これらを反映させ、不純物クラスターの生成メカニズムも考慮したものだったが、玄海1号の監視試験による評価結果は、その予測値を40度C以上も上回るものだった。
 そこで、補正に補正を加えて、2013年に改訂された予測式が現在の予測式だ。
 現在、高浜原発1号機の脆性遷移温度は99度。美浜原発3号機は57度、高浜原発2号機は40度とされている。これら原発は危険すぎてECCSを作動させられない。
 こんな危険な原発を、60年も動かすことを認めてしまう異常な国が、日本である。
 さらにこのうえ、60年を超えても動かし続けられるように制度を変えようと目論んでいる経産省。もはや異常を通り越している。
 止めなければ、福島第一原発事故以上の大事故が起きる。

 ◎運転延長は原発の危険度を上げるだけ

 40年を超える美浜3、高浜1、2、東海第二は、日々劣化を続ける老朽炉の中でも特に劣化が進んでいる。
 圧力容器だけでなく、格納容器、電源ケーブル、コンクリート材、配管類。
 老朽化したら交換すれば良いというのは、予め交換できるように設計施工されたものに限られ、取り替えのきかないものも多数あるし、そもそも劣化が進んでいるか把握できていなければ、破壊されるまで交換できない。
 2004年8月9日(長崎原爆の日であることは象徴的)、関電美浜原発3号機の二次系配管が突如破断し、定期検査の準備作業で入っていた下請作業員5人が死亡、7人が重症を負う事故が起きた。
 原発では最悪の事故だったが、破断した二次系給水配管は運転開始(1976年12月)以来一度も検査されていない配管で、腐食により減肉していたため圧力に耐えきれずに爆発的に破断していた。
 老朽炉では劣化が進んでいて破断寸前になっているかもしれない箇所が見逃される可能性も高まる。
 検査体制も合理化が進んでいて、予測式や劣化の進展予測などで検査・交換工事の数を減らそうとしてきた。
 それもまた、リスクを高めている。
 日本の原発保守体制の劣化と電力会社の利潤追求至上主義に加え、今度は電力不足キャンペーンまで加わったため、今後、老朽炉の運転延長で、さらに危険度を増していくのではないだろうか。

(注2)脆化進行の予測は「材料試験炉」という原子炉で、短期間に集中して圧力容器の材料と同じ鋼材に中性子照射を行ない、そこから得られたデータを基に考案された「脆化予測式」によって行われていたが、近年は実機のデータも一部採用したうえでの予測式が用いられている。 
KEY_WORD:原発_運転期間_延長_:FUKU1_:MIHAMA_:TAKAHAMA_:TOUKAI_GEN2_:廃炉_:GENKAI_: