[2022_11_18_02]ウクライナ侵攻長期化でチェルノブイリ被災者に影 薬届かず体調悪化(毎日新聞2022年11月18日)
 
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ウクライナ侵攻長期化でチェルノブイリ被災者に影 薬届かず体調悪化

 ロシアによるウクライナ侵攻の長期化が、チェルノブイリ原発事故の被災者の生活も脅かしている。甲状腺薬の入手が困難となって健康状態が悪化する人が相次ぎ、現地で子どもたちを集めて毎夏続けてきた保養活動も、戦闘の激化によって実施できなくなった。日本から被災者を支援している市民団体「チェルノブイリ子ども基金」(東京都練馬区)は、「原発事故と戦争で二重の被害に苦しむ人々の現状を知ってほしい」と訴えている。

 「終わりのない悪夢」

 「毎日、私たちの小さな町に若者たちの遺体が埋葬のために運ばれています。ひどいことです。終わりのない悪夢です」
 ウクライナ北西部ジトーミル州の町で暮らす、オリガ・ベイさん(35)。首都キーウ(キエフ)から180キロ近く離れた小都市も爆撃を受け、ミサイル攻撃におびえながら暮らしている。
 だが、彼女が恐れていることがもう一つある。「どこに行っても薬が売っていません」
 チェルノブイリ原発事故(1986年)の翌年に生まれたオリガさんは、小児期に甲状腺がんと診断され、甲状腺の切除手術を受けた。必要なホルモン量を賄うため、甲状腺ホルモン剤の服用を続けなければならない。定期的に専門医の診察を受け、必要量を処方されてきたが、侵攻で町の全医療機関が数カ月間、閉鎖に。薬局も多くが閉まり、開いていても医薬品不足で置いていない日々が続いた。
 秋になってようやくホルモン剤を入手できたが、体調は著しく悪化した。戦争の終わりはいまだ見えず、「再び手に入らなくなるのでは」と不安が募る。
 原発事故被災者の支援を長年続けてきた子ども基金には、こうした甲状腺などの健康被害を抱える人々からの悲痛な声が、連日のように届いている。

 途絶えた「保養プロジェクト」

 子ども基金は96年から、原発事故で被災したウクライナと隣国ベラルーシで「保養プロジェクト」を毎年実施している。夏の休暇などを活用して被災地周辺の子どもたちを現地の保養施設に招き、汚染の心配のない場所で過ごしてもらいながら健康診断や治療、カウンセリングを続け、これまでに延べ約4600人を支援してきた。
 ウクライナでの保養は近年、黒海に面したクリミア半島で続けてきたが、2014年にロシアに占拠されたため、南部ヘルソン州の海辺の町に移った。20年からの新型コロナウイルス禍でも途絶えることはなかったが、侵攻以降はロシアが一方的に併合を宣言するなどして両国軍の激戦地となり、初めて開催できなくなった。
 「チェルノブイリ原発事故は過去の話と思われがちだが、健康被害は今も続いており、戦禍によって二重の苦しみを負っている」。現地に赴いて保養事業を主催してきた、子ども基金の佐々木真理事務局長(58)は厳しい現状を語る。
 基金は今、被災地に暮らす子どもたちの姿を伝えるカレンダーを作り、支援金を募っている。販売収益は毎年、保養や医薬品の購入に充てている。佐々木さんは「一日も早く現地に平和な日常と笑顔が戻るよう、手助けをしたい」と話す。
 カレンダー(見開きA4判)は1部800円、送料200円。問い合わせは子ども基金(03・6767・8808)。申し込みはメール(cherno1986@jcom.zaq.ne.jp)で。【千葉紀和】
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