[2022_11_14_05]原発を出来るだけ長く使いたいからといって「停止期間を除外する」根拠とはいったい何か!? 設備は停止していても劣化する 「塩害と地震が原発の老朽化を促進させる」 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ2022年11月14日)
 
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原発を出来るだけ長く使いたいからといって「停止期間を除外する」根拠とはいったい何か!? 設備は停止していても劣化する 「塩害と地震が原発の老朽化を促進させる」 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 
◎ 11月8日、資源エネルギー庁の小委員会「総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会」では原発の運転期間延長が議題となった。
 1.現状維持、
 2.運転期間の上限撤廃、
 3.運転期間から休止期間を除外する、との3つの案が示された。
 このうち会議後に「有力」とされたのは「3案」の休止期間の除外だった。
 それまでは「2案」が有力とされていたが、世論の反発が大きいと考えたのか、変えてきた。
 しかしこれは本質的に誤っている。

◎ 「3案」とは、「事業者が予見し難い、他律的な要素」により停止していた期間を運転期間から除外するというもの。
 原子炉等規制法の改正などにより、それまでとは異なる規制に変更したことで、運転できなくなった原発にかかる費用や、早期廃炉を余儀なくされた原発の廃炉費用などが電力会社の負担となっていること、また、司法判断で運転差止が命じられるなどで、判決が確定していなくても稼働できなくなることが、電力会社に不利益になることへの「救済措置」である。
 しかしこれらは、原発というハイリスクな装置を発電設備に選んだ責任であり、事業者が負うべきリスクに他ならない。なぜ電力会社の利益のために住民がリスクを取らなければならないのか、福島第一原発事故の教訓は、全く感じられない。
 原発事故が起きれば、損害を被るのは電力会社だけではない。住民も重大な被害を受けることは福島第一原発事故で証明済みだ。損害賠償は金銭補償でしかなく、とても生命の損失や居住していたコミュニティを補えるものではなく、さらに十分な補償もない。

◎ 3.11に地震と津波に破壊されたのは、あの場所に原発を立地し、その後漫然と運転を続けていた東電の責任である。
 福島第一原発については司法により「違法」(最高裁判所の判決により東電の賠償責任は全て認められている)とされた東電福島第一原発の2011年までの運転継続行為だった。これは震災後は改正原子炉等規制法により法令上認められないことになった。
 福島第一原発事故を受け、再発防止を誓ったことが法律改正の理由だ。
 当然、新規制基準への適合性がない原発は動かせない。
 これは「規制側の都合」などではなく、過去に犯した国と電力の双方の責任の帰結なのだ。

◎ 許可されていない原発の運転停止期間は、何ら救済すべきものではなく、それをすれば、ありとあらゆる「期間を定めて許認可を必要とする」設備を有する産業において一斉に不平等、不公正の批判が沸き起こる。
 新規制基準適合性審査において義務づけられる「特定重大事故等対処施設」の不存在を運転停止の根拠としている原子炉等規制法をそのままにして、その建設に掛かる時間を除外する考え方は、自分で作った法律の運用さえ変えて「特重」が出来る前に既に再稼働を認めて(ただし、工事認可後5年間に限る)「電力会社の救済」を行ってきた規制委の措置とも矛盾する。
 こんな法律改正は「矛盾した法令改正」として内閣法制局は拒否しなければならない。

 以下は、委員会において「2案」に賛成したと思われる委員の発言の
概要だ。
◇「経年炉の脆化といった安全面の論点は非常に重要だが、科学的・技術的見地から規制委員会にて個別に判断されるべき事象ではないか。」
◇「本小委員会は利用の観点からの検討がタスクであり、規制委員会の見解を踏まえつつも、安全面と利用面の検討について一定の切り分けをすることが前提ではないか。」
◇「経年劣化を起因とした原子炉施設の運転期間の上限は、法律等により一律に定めるよりも、取替困難な設備・機器の劣化状況に着目し、科学的、技術的に評価し、見極めるべき。」
(原子力政策に関する今後の検討事項について 令和4年11月8日より)

 これではあくまでも電力会社の都合であって、原子力の安全規制とも相反するし、事故防止も困難にするだけである。規制は規制で規制委がチェックすればよく、老朽炉の安全問題は、利用の観点で議論している本委員会には関係ないと言いたいようだ。
 この議論、昨今のウクライナ戦争を背景にしたエネルギーコストの増大が電気料金にも跳ね返り、市民生活にも多大な影響を与えていることを背景として、エネルギーコストを低減することにもなると宣伝し、これを突破口として原発の再稼働、さらには新増設の「解禁」まで持って行きたいという動機が透けて見える。
 しかしそれは重大事故を再発させる確率を引き上げることにしかならない。

☆諸外国を引き合いに出すことの誤り

◎ 海外においては、原発の運転制限を決めている国はほとんどなく、40年を超える運転をしたければ規制機関に延長を申請し、許可を得ることを要件としている。
 しかし実際に60年以上動かしている原発は世界に一つもない。50年を超えた原発がいくつかあるだけだ。
 米国などでは80年運転が許可されているとはいってもあくまでも許認可の段階のことで、実績があるわけではない。延長許可を得ていても期限よりも前に廃炉にしているケースもある。

◎ 海外の原発は、ほとんどが地震が少ない内陸立地だ。
 日本と同じ条件である地震多発地域で海岸立地は、台湾くらいしかない。
 米国のサンオノフレ原発は地震多発地帯に近い西海岸に立地しているが、例外だ。
 どちらの原発も廃炉が決まっている。
 韓国やフィンランドも海岸立地だが地震は少ない。インドの一部では海岸立地で地震の多いところにある可能性があるが、詳細は不明だ。
 老朽化を促進させる要因に、塩害と地震が大きく影響する。その条件がそろっている日本の原発は他国の原発に比べても極めてリスクが高いことは容易に想像がつく。
 また、日本の技術が高いから安全に運転出来るというのももはや神話である。
 福島第一原発事故は世界で例のない3基の原発の同時メルトダウンであったことはそれを証明している。
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