[2022_11_05_01]原発60年超運転 気になる規制委の先走り(西日本新聞2022年11月5日)
 
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原発60年超運転 気になる規制委の先走り

 「推進側」と「規制側」が一体となって、原発の長期運転に道を開こうとしている。国民の目にはそう映っているのではないか。
 原子力規制委員会は、運転延長に前のめりに見える姿勢を改めるべきだ。
 原発の運転期間を「原則40年、最長60年」と定めた上限規制を撤廃する政府方針を踏まえ、原子力規制委員会が新たな規制案を示した。
 運転開始から30年になった原発は、10年を超えない期間ごとに設備の劣化状況を評価し、運転の可否を判断する仕組みになるという。この手続きを繰り返せば60年を超える長期運転も可能になる。
 規制委が運転期間の上限撤廃に備え、新たな規制案を検討するのは当然だ。
 ただし、肝心の運転期間の延長については経済産業省の専門家部会で検討している段階である。運転延長の議論を規制委が先導する格好になっているのは好ましくない。
 新たな規制案の詳細はこれから詰める予定で、山中伸介委員長は「現行制度よりはるかに厳しい規制になる」と説明した。
 老朽化した原発の運転延長を安易に認めてもらっては困る。厳しい審査に加え、原発の運転を停止できる厳格な運用が重要となる。
 60年ルールの撤廃は先月、岸田文雄首相が検討を指示した。ロシアのウクライナ侵攻がもたらすエネルギーの需給逼迫(ひっぱく)を背景に、原発の利用拡大で電力の供給力を高める政治判断である。
 原発推進の政治判断を無批判に受け入れては、国民が期待する規制委には程遠い。
 行政組織の中でも、規制委は政府から独立して権限を行使できる「三条委員会」である。ルールに基づき厳しく対応する務めを果たさなければ、原発政策そのものに対する不信を広げかねない。
 規制委は2020年に、原発の運転期間について「原子力の利用の在り方に関する政策判断にほかならず、規制委が意見を述べるべき事柄ではない」との見解を公表している。経年劣化の状況は原発ごとに異なるので、科学的、技術的に個別に評価すべきだという趣旨だ。
 それにしても、このところの規制委の対応は運転延長に寛大になっていないか。
 運転期間が長いほど設備や構造物の劣化は進む。上限規制がなくなれば原発の危険性が増すと国民が不安に思うのは自然だ。
 規制委は原発ごとに劣化状況を判断して厳格に対応すると国民に説明し、万が一にも規制を緩めることはないと約束すべきだろう。
 原発の推進部署と規制当局の役割分担が機能しなかったことが、東京電力福島第1原発事故を招いた一因である。
 十分な議論もなく岸田政権が打ち出した運転延長、新増設、建て替えの原発推進政策には問題が多い。だからこそ規制委の役割は重い。
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