[2022_10_07_08]人工降雨は効きすぎ? 中国で水不足(島村英紀2022年10月7日)
 
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人工降雨は効きすぎ? 中国で水不足

 中国南部では、渇水で7月からダムの水位が下がって水力発電が行えなくなり、電力不足に悩まされていた。四川省のトヨタの工場が操業を停止したほか、同省の東隣の工業都市、重慶にあるホンダの工場も閉鎖されるなど被害は日系のメーカーにも及んでいた。
 中国の南部で続いている猛暑と少雨はこれまでで最長になった。2022年の中国の熱波は60年以上前に記録が開始されて以来、最悪のものだ。
 「人工降雨」というものがある。昔から地球物理学者の夢だった。
 人工降雨は20世紀から各地で行われるようになった。中国やロシアで盛んに行われている。
 人工降雨は雲の中に氷の粒を作るために強制的に雪片を作る物質「シーディング物質」を散布する。雨を降らせるには雲の中に氷の粒を作る必要がある。その氷を作るのは空気中に浮かぶ微小な粒子で、自然状態では海の波が飛沫で吹き上げられた塩が核になる。このほか陸上で生じた砂塵などの粒子も核になる。
 人工降雨はある程度発達した雨雲があるときだけ成功する。雲のないときに雨雲を作って雨を降らせるのは不可能だ。雲を見つけて、その中にシーディング物質をまくのが成否を決める。
 人工降雨の材料はドライアイスやヨウ化銀を使うのが一般的だ。なかでもヨウ化銀は結晶格子が六方晶形なので氷や雪の結晶に似ているから雪片を成長させやすい。今回の中国ではヨウ化銀が使われた。
 散布するのは飛行機が多いが、最新式としてはドローンを使う。そのほかロケットや大砲も打ち上げに使われた。
 中国では2008年の北京五輪の開会式は晴れだった。現地は梅雨どきだったが、晴れた。
 これは、大きな行事当日の好天を狙って事前に雨を降らせたのだ。このためヨウ化銀を載せたロケット1100発余りが市内21カ所から雲に向かって発射された。
 ロシア(旧ソ連)でも、事前に雨を降らせて行事の当日を好天にしたことがある。
 今回、中国で投入されたのは巨大な気象制御用のドローンで、人が乗れるほどの大きさがある。6000平方キロメートルの領域をカバーできる。
 作戦は2022年8月25日から29日にかけて実施された。この作戦が功を奏したのだろう、9月28日に干ばつがひどかった四川省と重慶市で待望の雨が降った。
 だが、人工降雨の難しさも露呈した。思わざるほど雨が「降りすぎて」しまったことだ。場所によっては降水量が平年の2倍にも達した。
 しかも悪いことに、夏の間続いた干ばつの影響で山腹の斜面が固まってしまっていて水を吸収する能力が下がっていた。このため雨を降らせたことで洪水や土砂災害の危険性が高まってしまったのだ。
 他国との関係も出てきた。イランがイスラエルが行った人工降雨を「雨雲を盗んでいる」と非難したことがある。
 人工降雨も晴れた記念日を作るだけではなくて、いろいろ気を遣わなければいけない時代なのだろう。
 夢の技術のはずの人工降雨は、さまざまな問題に直面しているのだ。
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