[2022_10_01_03]完成時期が26回延期!迷走する「核燃サイクル」再処理工場(毎日新聞2022年10月1日)
 
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完成時期が26回延期!迷走する「核燃サイクル」再処理工場

 岸田文雄首相が原発の新増設など原子力政策の見直しを表明する中、核燃料サイクルをめぐる計画の先送りが相次いでいる。日本原燃は9月7日、青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場の完成時期を2022年9月から、再び延期すると発表した。【毎日新聞経済プレミア・川口雅浩】

 六ケ所村の再処理工場は1993年に着工し、当初は97年に完成するはずだった。ところがトラブルが相次ぎ、完成の延期は今回で26回目。しかも、今回は次の完成目標時期を示すことができず、迷走ぶりが際立った。同社は「原子力規制委員会に提出する申請書に記載すべき事項の整理や、技術的な課題の説明に時間を要した」と説明している。
 さらにJパワー(電源開発)は9日、青森県大間町で建設中の大間原発について、安全対策工事の開始時期をこれまでの22年後半から2年延期し、24年後半に変更すると県と町に報告した。工事開始の延期は5回目となる。
 大間原発は六ケ所村で再処理したウランとプルトニウムを混ぜて加工した「ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料」を使う「プルサーマル発電」専用の設計で、全炉心でMOX燃料を使う世界初の商業原発を目指している。いずれも政府と電力会社が国策として進める核燃料サイクルの中核施設だが、計画通りに進まない不都合な現実を物語っている。

 ◇青森県知事「遺憾通り越し驚がく」

 核燃料サイクルは、原発の使用済み核燃料を日本原燃の六ケ所村の工場で再処理し、取り出したウランとプルトニウムを原発で再利用しようとするものだ。日本原燃は東京電力ホールディングスなど大手電力会社が出資する再処理や核燃料加工の会社だ。
 日本原燃の増田尚宏社長は7日、青森県庁を訪れ、三村申吾知事に「22年度上期としていた完成時期は残念ながら達成できず、見直さざるを得ない。新たな完成時期は公表を年内とすることを決めた」と陳謝した。三村知事は「新たな完成時期が示されず、遺憾を通り越すぐらい驚がくしている」と苦言を呈した。
 その後、増田社長は青森市内で記者会見し「(設計認可への)考えが甘かった」と説明。核燃料サイクル事業全体への影響は「少なからずある」とした上で、「地域の信頼をたがえることなく引き続きやっていきたい」と述べた。
 日本原燃は原子力規制委が東京電力の原発事故後に定めた新規制基準を受け、耐震性など安全性を強化する大枠の方針を定め、20年に規制委の認可を受けた。しかし、詳細な設計や工事については、さらに規制委の認可を受ける必要があり、審査が続いている。

 ◇フルMOXの大間原発は?

 一方、Jパワーが建設中の大間原発はMOX燃料を使うプルサーマル発電の原発として、08年に着工した。当初は14年に運転開始の予定だった。
 従来の原発で行うプルサーマルは、安全性を考慮して炉心の3分の1しかMOX燃料を装てん(そうてん)しない。これに対して大間原発はプルサーマル専用の設計で、全炉心でMOX燃料を使う「フルMOX」と呼ばれる原発だ。通常のプルサーマルよりプルトニウムを多く消費するため、核燃料サイクルの切り札として期待された。
 ところが大間原発は、東京電力の原発事故を受け、当初計画の約4割近くまで工事が進んだところで事実上、建設がストップしている。
 Jパワーは地震や津波の安全対策工事を始める予定だが、原子力規制委の安全審査に時間を要している。今後の見通しは立たないが、Jパワーは24年後半に工事を開始し、30年度ごろの運転開始を目標にしている。

 ◇「国は前面に立つ」と言っても

 六ケ所村の再処理工場と大間原発は、核燃料サイクルの中核施設として相互依存関係にあるが、相次ぐ延期で実現の見通しが立っていない。
 このため青森県の三村知事は13日、経済産業省で西村康稔経済産業相と会談し、「国が進める核燃料サイクルの推進が危ぶまれる状況と言わざるを得ない」と懸念を表明した。
 これに対して、西村経産相は「核燃料サイクルを推進していく基本方針に変わりはない」と述べた。岸田政権は使用済み核燃料の再処理や高レベル放射性廃棄物の最終処分など電力会社が抱える難題について、「国が前面に立って解決に取り組む」としている。しかし、再処理工場の完成に向けた具体的な支援策など見つかっていない。
 六ケ所村の再処理工場をめぐっては、原子力規制委の更田豊志委員長が14日の記者会見で「完成時期を示すのは事業者」と前置きしながらも、「完成時期を示しながら、何度も何度も後ろへ送るぐらいだったら、『まだ言える時期ではない』というのは、むしろこれまでよりも正直なのではないか」と述べた。
 完成すると言いながら、いつまでも完成しない再処理工場の技術的な難しさを、更田氏は原子力の専門家として、認識しているようだった。
 エネルギー業界からは「完成する見込みもないのに延々と延期を繰り返すのは、経産省と電力会社の得意技。岸田政権は原子力政策を見直すと言いながら、核燃料サイクルをどうするつもりなのか」と、いぶかる声も聞こえる。
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