[2022_09_21_03]福島第一原子力発電所事故を踏まえた 原子力災害時の安全な避難方法の検証 〜検証報告書〜(新潟県原子力災害時の避難方法に関する検証委員会2022年9月21日)
 
参照元
福島第一原子力発電所事故を踏まえた 原子力災害時の安全な避難方法の検証 〜検証報告書〜

 I 序文

 新潟県原子力災害時の避難方法に関する検証委員会は、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故を教訓に、初動、防護措置、避難先までの広域避難、それらの事前の取り組みについて検証を行ったものである。本委員会は2017年より始めたものであるが、足掛け6年、24回の議論をもって本検証を終える。

 本検証委員会の経緯

 本委員会は、原子力災害時の安全な避難方法を検証するために防災、医療、法律、交通、安全保障、訓練、災害情報、シミュレーションなどの放射線防護以外の様々な分野の専門家によって構成される委員の発議をもとに、原子力災害時の対応について課題を抽出し、論点の整理を行ってきた。
 第1回、第2回の委員会で、議論すべき原子力災害時の対応を委員意見を元に整理し、「事故情報等の伝達体制」「放射線モニタリング」「スクリーニング及び避難退域時検査」「安定ヨウ素剤の配布・服用」「屋内退避及び段階的避難」「PAZ・UPZ内の要配慮者の避難・防護措置」「学校等管理下の児童・生徒の避難・防護措置」「PAZ・UPZ内の住民の避難・防護措置」などについて議論をしてきた。議論の中で「テロリズムと避難」「新型コロナウイルス感染拡大下の広域避難・放射線防護」を加え、計10の検証項目に整理した(検証結果1)。
 第15回、第16回の委員会における、この10の検証項目の他に「横串し」を通した検討が必要であるという委員会での議論を踏まえ、さらに必要と思われた「被ばくに関する考え方」「シミュレーション、ケーススタディに関する考え方及び原子力災害時避難経路阻害要因調査」について追加的に議論し、整理した(検証結果2)。
 これらの結果、99項目、456の論点(避難・防護措置についての課題や考えるべきポイント)に整理した。

 本検証委員会の意義

 東京電力福島第一原子力発電所事故以降、原子力事故時の避難・防護措置の方法や基準、用語は原子力規制委員会や内閣府(原子力防災)で議論され、進められてきている。だが、それらには東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓や他の自然災害の教訓が踏まえられているものなのか、県民や関係者に理解されうるものなのか、県民や関係者が対応しうるものなのか、様々な意見がある。それらについて改めて本委員会では様々な分野の様々な意見をもつ有識者委員によって議論を行った。
 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた原子力災害時の安全な避難方法について、事故とその後の避難・防護措置に関して、様々な専門の有識者委員による公に開かれた検証委員会として、本格的に検証を行ったものは本委員会が初めてであり、この点で意義がある。
 2022年1月1日現在、世界で運転中の原子力発電所は431基存在する。ゆえに、今後も事故やトラブルとそれによる原子力災害の可能性は否定できない。それは東京電力柏崎刈羽原子力発電所も同様である。国内外の原子力事故が発生した場合も、本検証で議論してきた課題が顕在化するはずである。その点で再稼働に関わらず、本検証は意味を持つ。
 なお、国際原子力機関(IAEA)報告書INSAG-10“DefenceinDepthinNuclearSafety”では、原子力安全に関する深層防護として、防護レベルをレベル1からレベル5までの5層に設定している。レベル1異常運転や故障の防止、レベル2異常運転の制御および故障の検知、レベル3設計基準内への事故の制御、レベル4事故の進展防止およびシビアアクシデントの影響緩和を含む、過酷なプラント状態の制御の他に、レベル5緊急時計画として、放射性物質の大規模な放出による放射線影響の緩和を目的としてサイト外の緊急時対応を求めている。よって、原子力発電所の安全性とは別に、独立して、原子力事故が発生した際の避難計画を議論することは重要である。
 またテロ、武力攻撃事態を踏まえれば、再稼働に関わらず原子力防災、避難・防護措置は考えておく必要がある。
 総じて、同じ事業者が運転する世界最大の原子力発電所である東京電力柏崎刈羽原子力発電所に関して、東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえて、この原子力防災に関する検証が行われたことは大きな意味があろう。

 新潟県に求めること

 原子力災害、放射線に関する災害から県民の健康を守るためには、単に遠くに避難することが重要なのではなく、被ばくを最小化することが求められる。もちろんそのためには科学的に妥当で、かつ専門的な知識に基づく判断が必要である。そして、それらは県民に理解され、適切な行動がとられて初めて実効性ある原子力防災、避難・防護措置となる。県民を、原子力事故を原因とする放射線被ばくや混乱から守るために、原子力防災、避難・防護措置に関する対策を行うこと、それらを検討していくことは地元自治体である新潟県にとって必要な使命である。
 新潟県には、本委員会で議論されたことを踏まえて、99項目、456の論点について順次検討・対応し、訓練、トレーニングを行うこと、シミュレーションを検討すること、また必要に応じてそれらの対応がなされているかどうかの検証を不断に行っていくこと、必要な事項を、関係機関、事業者、政府に要求・確認していくことを求める。
 なお、本検証報告は、東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた、2017年から2022年までの段階での検証である。新潟県には、議論や対応すべき事柄が生じた場合の追加的な対応と検証も求める。
 ただし本委員会は避難先までの避難・防護措置を議論したに過ぎない。東京電力福島第一原子力発電所事故の後、10年以上を経過しても、廃炉は道半ばであり、福島県の沿岸部は人口が回復せず、多くの避難者を抱え、除染土壌や処理水への対応、風評被害など様々な問題を抱えている。大規模な原子力災害が発生し、放射性物質が大量に拡散した場合は、取り返しがつかない。東京電力柏崎刈羽原子力発電所の再稼働を議論するにあたっては、多くの関係者、有識者の協力を元にして行われた本委員会の検証を含む3つの検証が踏まえられること、また東京電力福島第一原子力発電所事故後の福島の現状が踏まえられることを、関係機関、東京電力、政府、県に強く求めるものである。

 謝辞

 最後に、本委員会の議論にあたって、ヒアリングに協力してくださった、東京電力、内閣府(原子力防災)、原子力規制庁、また傍聴という形で我々の議論に耳を傾けてくださった関係者、県内市町村、メディア、県民の皆様に深く感謝する。問い合わせ等に協力いただいた関係機関、また関係する新潟県の職員の皆様に深く感謝する。
 東京電力柏崎刈羽原子力発電所の廃炉完了まで、原子力事故による原子力災害が発生することなく、本検証が杞憂となり、「机上の空論」のままその役割を終えることを望む。
 新潟県原子力災害時の避難方法に関する検証委員会委員長
 関谷直也
(後略)
KEY_WORD:KASHIWA_:FUKU1_:HIGASHINIHON_:汚染水_:除染土_最終処分_:廃炉_: