[2022_08_26_04]社説:原発新増設 反省なき回帰 認められぬ(京都新聞2022年8月26日)
 
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社説:原発新増設 反省なき回帰 認められぬ

 東京電力福島第1原発事故の反省はどこに行ったのか。唐突で受け入れがたい方針転換だ。
 政府は将来的な電力の安定供給に向けて、次世代型原発の建設を検討するとの方針を公表した。原発の新増設や建て替えは想定しないとしてきたエネルギー政策の基本方針の重大な転換となる。
 さらに最長60年としてきた原発の運転期間の延長も検討する。来年以降には、既に新規制基準の審査に合格している原発7基を追加で再稼働させることも目指すという。
 脱炭素社会の実現と電力供給を両立するには原発の活用が重要との判断だが、安全性や核のごみなど多くの課題は解決していない。事故が起きれば取り返しのつかない被害を生む。今なお続いていることだ。
 これ以上、原発依存を続けることに国民の不安は大きく、持続可能な社会や脱炭素にも本当につながるとは思えない。それなのに将来にわたって活用を決めてしまえば、主力化を急ぐべき再生可能エネルギーが後回しになりかねない。
 国民的な議論を欠いた方針転換では、反発を招くのは必至ではないか。
 岸田文雄首相は参院選で自民党が大勝した後に、原発の稼働拡大方針を示した。電力の逼迫(ひっぱく)やロシア発のエネルギーショックによる料金高騰を逆手に取り、課題山積のまま「原発回帰」にかじを切る形だ。
 日本は2050年までに二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出実績ゼロを掲げている。脱炭素社会の実現は避けて通れないが、原発依存に回帰するのはあまりにも短絡的であり、現実的でもない。
 原子力規制委員会の審査に合格した原発の再稼働も進んでいないのが現状だ。新増設を掲げても地元の理解や巨額投資など実現に向けたハードルは高い。
 小型モジュール炉のような次世代型原発は高コストで経済性がないとの指摘もある。
 原発の建設費は数千億円に上り、どう回収するのか見通しは立っていない。
 さらに早期に設計に取りかかっても運転開始は30年代半ばになり、電力確保や排出ゼロに結びつくかは疑問だ。
 運転期間についても、長期間の稼働停止を算入せず実質的に延長する方法を模索する案があるが、停止期間中の設備の劣化などは無視できない。
 原発事故後、当時の民主党政権は脱原発にかじを切った。自民党が政権復帰して改定されたエネルギー基本計画は、原発を「重要なベースロード電源」と活用継続を位置づけつつも、国民の反対世論から再稼働推進にとどまってきた。
 説明や議論もないままで新増設まで踏み込むのは、まるで事故がなかったかのような無責任な態度と言わざるを得ない。
 ウクライナ危機は有事の際には原発が攻撃対象にされかねない危うさを浮き彫りにした。
 政府が力を入れるべきは、持続可能なエネルギー構造を、再生エネを中心に再構築することのはずだ。エネルギー安全保障を図るなら、何より国民が安心できる形でなくてはならない。
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