[2022_08_01_02]「疑惑の全容解明して」市民団体 関電旧経営陣「起訴相当」(毎日新聞2022年8月1日)
 
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「疑惑の全容解明して」市民団体 関電旧経営陣「起訴相当」

 不起訴処分から一転、検察が再び捜査することになった。関西電力の歴代幹部が会社法の特別背任容疑などで告発された問題で、大阪第2検察審査会(検審)は1日、不起訴となっていた八木誠前会長(72)ら3人を「起訴相当」とする議決を公表した。問題を告発し、検審に審査を申し立てた市民団体のメンバーは「疑惑の全容を解明してほしい」と求めた。
 「大阪地検の全ての判断が誤っていると判断した。市民の健全な常識が反映された結果だ」。市民団体「関電の原発マネー不正還流を告発する会」の代理人の河合弘之弁護士らは議決公表後に記者会見し、検審の判断を評価した。
 市民団体が「悪質性が高い」と指摘していたのが、議決で起訴相当とされた役員報酬の補てん(ほてん)問題だった。関電は東日本大震災に伴う原発の運転停止の影響で経営が悪化し、2度にわたり電気料金を値上げした。「身を切る覚悟」として役員報酬の減額に踏み切ったが、役員の退任後に嘱託として任用する形で、森詳介元会長(81)ら18人に総額約2億6000万円の報酬を支払っていた。

 だが、この報酬について、不起訴とした大阪地検特捜部は減額分の補てん(ほてん)とは認められないと判断した。嘱託としての業務実態がないとは言えないというのが理由だ。一方、大阪国税局は報酬の一部について、退職金を嘱託報酬に仮装した所得隠しにあたると認定し、捜査当局と税務当局の判断が分かれる形になっていた。この点、検審は「報酬額は役員それぞれの減額分を明確に考慮して試算されており、補てん(ほてん)の趣旨は明らかだ」と指摘。「公共性の高い企業のトップの地位にありながら、自らや身内だけにひそかに利益を図っていた」と強く批判した。
 市民団体が検審に審査を申し立てた当時、公募で集まった申立人は1194人。その後、1371人まで増えた。事務局長の宮下正一さん(73)=福井県坂井市=は「原発を巡る黒い疑惑の全容が解明されることを望んでいる」と述べた。告発人の一人である自営業の男性(69)=大阪市=も「お金の原資は私たちの電気料金だ。事実をうやむやにしてはいけない」と訴えた。
 検審は「強制捜査や再度の事情聴取、独自のデジタルフォレンジック(デジタル鑑識)など、さらなる捜査を十分に行って事実を明らかにしてほしい」と特捜部の再捜査に注文を付けた。ある検察幹部は「(起訴するには)合理的な疑いが残らないような立証が必要でハードルは高い。証拠が十分足りていたのかなど、あらゆる側面から検討し直したい」と厳しい表情を見せた。八木氏らの弁護団の一人は「法と証拠に基づく判断とは言えず、納得がいかない」と不満を漏らした。
 一連の問題を巡って関電は2020年6月、八木氏ら旧経営陣に損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。株主も現・旧経営陣を相手に別の訴訟を起こしている。どちらも被告が重なるため審理が併合されており、関電側と株主側がともに原告席に並んで旧経営陣の責任を追及する異例の裁判となっている。【沼田亮、古川幸奈、山本康介、安元久美子】

 「嘱託」実態の有無が重要

 元東京地検特捜部検事の高井康行弁護士の話  役員報酬の補てん(ほてん)問題は、役員退職後の「嘱託」の業務に実態がなかったと言い切れるかが重要だ。だが、検察審査会の議決は「業務内容はあやふやなもの」「業務の実態がほとんどない者もいた」という表現にとどまり、「実態がない」とは断定していない。これで「起訴相当」とするのは、「疑わしきは容疑者・被告の利益に」という刑事司法の原則から外れていると言わざるを得ない。追加納税分の補てん(ほてん)、期待されていた業務内容と報酬額が見合っていないと断定できなければ起訴は難しいだろう。

 検察審査会とは

 検察審査会(検審)は、検察官による不起訴処分の適否を「市民感覚」でチェックする機関だ。議決内容によっては、捜査対象者が強制的に起訴される可能性もある。
 検審は、有権者から無作為に選ばれた11人でつくられる。不起訴を不服として審査が申し立てられると、捜査記録などを基に処分の妥当性を非公開で審査する。過半数が「不起訴に問題がある」と判断すれば「不起訴不当」、8人以上なら「起訴相当」と議決する。
 起訴相当の場合、原則3カ月以内に検察が再捜査する。その結果、検察が改めて不起訴にしても、検審が2度目の起訴相当を議決すれば、裁判所が指定する弁護士によって起訴される。【山本康介】

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