[2022_07_18_02]風力発電の大規模開発 東北3知事から「懸念」相次ぐ(産経新聞2022年7月18日)
 
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風力発電の大規模開発 東北3知事から「懸念」相次ぐ

 風力発電の大規模開発をめぐり、東北6県のうち3知事が相次ぎ懸念を表明している。宮城、山形両県にまたがる蔵王連峰での開発計画に宮城県の村井嘉浩知事が「反対」と明言。山形県の吉村美栄子知事も「選んでほしくない」と述べた。青森県の三村申吾知事は「無秩序」な森林開発に懸念を表明。背景には、国策による再生可能エネルギー開発の大規模化の中、風の適地が多いとされる東北地方に事業が集中している現状がある。

 村井知事「私も反対」

 きっかけは宮城、山形両県の蔵王国定公園を含む地域で持ち上がった、関西電力(大阪市)による最大23基の風力発電計画だった。
 6月6日、村井知事は定例記者会見で「関電が東北で事業を進めるのには違和感がある」と疑問を呈した。7月4日には地元、川崎町の町長が景観や自然環境、土砂災害への悪影響から反対する意見書を県に提出。知事は同日の定例会見で「これだけ住民が不安に思っており、町長は非常に厳しい意見書を私に出した。まさに民意。それに基づいて私も反対とはっきり申し上げたい」と述べた。
 山形県の吉村知事は6月24日の定例会見で「蔵王は山形を代表する観光地。選んでほしくない」と同調した。
 これに先立つ6月10日には、青森県の三村知事が県議会の一般質問で、県内の八甲田周辺などでの風力発電計画をめぐり「森林を無秩序に開発してよいというわけではない」などと懸念を示した。

 再エネの是非でなく

 太陽光や風力など再エネをめぐっては、菅義偉前首相が2050(令和32)年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言。政府は「再エネの主力電源化」を掲げている。
 この流れの中、陸上、洋上の各風力発電の開発計画が大規模化。さらに風の適地などの関係から、北海道や東北など同一地域への事業の集中化が起きている。このため景観や自然破壊、健康被害などをめぐって、地域住民との合意形成が各地で課題となっている。
 「蔵王風力発電建設計画の中止を求める会」共同代表の農業、佐藤大史(まさふみ)さん(40)は「再エネの是非ではなく、大規模開発による環境破壊に強く反対する」と話す。

 「節度」超えた事業

 村井知事は一連の発言の中で、再エネ開発について「先人が育ててきた木を切ることで、逆に二酸化炭素の吸収源が減っていく」とその矛盾点を再三指摘。
 その上で「蔵王に限らず、全県でそういう動きが出ている」と懸念を示した。県環境対策課によると、県内で環境影響評価手続き中の風力発電は約300基に上るという。
 中でも、栗駒国定公園にも近い宮城、山形両県の3市3町にまたがる鳴子温泉周辺では、外資系を含む4事業者による7つの計画が進行。最大高さ200メートルの風車が最大計約190基、集中立地するという。
 住民団体の一つ「鳴子温泉郷のくらしとこれからを考える会」(曽根義猛代表)は「節度を超えた大規模事業には健康、安全、環境、景観破壊など疑問や不安がある」として、全計画の白紙撤回を求めている。
 計画地の一部には、希少な渡り鳥のルートが含まれ、同会や「日本雁を保護する会」などが実態を調査。16日にオンラインで開かれた調査報告会では、保護する会会長で研究者の呉地正行氏が「絶滅危惧種のシジュウカラガンを含む、ガン類などの主要な渡りルートの一つだと分かった」などと報告した。
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