[2022_07_15_05]社説:13兆円賠償命令 重たい原発の経営責任(京都新聞2022年7月15日)
 
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社説:13兆円賠償命令 重たい原発の経営責任

 前代未聞の原発事故を招いた経営責任を明らかにした判決だ。
 東京電力福島第1原発の事故を巡る株主代表訴訟で、東京地裁は東電旧経営陣4人が津波対策を怠って会社に損害を与えたとして、計13兆円余りを東電に支払うよう命じた。国内の民事訴訟では最高額とみられる。
 提訴から10年。当時の勝俣恒久会長ら経営トップの責任を認めた初の司法判断である。「津波対策を放置した」「安全対策や責任感が根本的に欠如していた」と痛烈に処断している。論理は明快で説得力のある判決といえよう。
 裁判長は原発事故を巡る多数の訴訟で初めて福島第1原発を視察し、7カ月かけて書き上げたといい、原告側は「歴史に残る名判決」と評価している。
 判決によると、東電子会社は政府機関が2002年公表した地震予測に基づき、08年に福島第1原発に最大15・7メートルの津波が来ると試算した。だが、旧経営陣は政府予測の信頼性を不明と評価し、土木学会に検討を委託する形で対応を放置したと認定。「著しく不合理で許されない」と批判した。
 さらに原発の主要建屋や重要機器室に浸水対策工事を講じていれば、津波による電源喪失に伴う重大事故を防げた可能性が十分あったと結論付けた。
 今事故に伴う賠償や廃炉、除染などの費用は現時点で約22兆円とされる。うち東電の負担は16兆円であることを勘案し、旧経営陣の賠償額を約13兆円とした。
 原告の直接利益にはならない株主代表訴訟は、企業不祥事の指弾や抑止の手段に用いられることが多い。今回の原告らも、旧経営陣の責任を追及しない東電に代わって原発の危うさを問うた。
 仮に判決が確定しても、旧経営陣に支払える額ではないだろう。逆に言えば、原発稼働の責任は民間事業者では背負い切れないほど重いということではないか。
 原発事故を巡る民事訴訟は、避難者らによる集団訴訟で最高裁が3月に東電の賠償責任を認めて確定した。一方で最高裁は先月、「仮に国が規制権限を行使して東電に津波対策を義務づけても同様の事故に至った可能性が高い」として国の責任は認めなかった。
 国策で進めた原発なのに、事故が起きれば一事業者の責任というのでは、国民は安心できない。
 電力需給の切迫に乗じ、政府・与党で原発活用論が高まっているが、人の手に到底負えないエネルギーとして撤退すべきだろう。
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