[2022_07_07_04]電気代高騰あえぐ農家、製造業 だが「原発再稼働ありきでいいのか」(毎日新聞2022年7月7日)
 
参照元
電気代高騰あえぐ農家、製造業 だが「原発再稼働ありきでいいのか」

 ロシアのウクライナ侵攻に伴い、日本のエネルギー問題が改めて注目されている。化石燃料の輸入価格高騰による電力料金の上昇に加え、猛暑による電力需給の逼迫(ひっぱく)など市民生活にも影響が出始めている。政府は原発を安定的に発電できるベースロード電源に位置づけ、経済界からは再稼働を求める声が高まる。一方で原発が武力攻撃の対象となるという懸念もある。多数の原発を抱える福井県に接する滋賀県内でも人々の思いが交錯している。

 農家、水不足で電気代高騰で負担重く

 今回の参院選でも原発の再稼働推進をエネルギー政策の公約に掲げる党と、脱原発を主張する党に訴えが分かれている。
 「短い梅雨で水が不足しがちだが、止められる時は止めながらポンプを動かしている」。水田などに琵琶湖の水を送り出す野洲川下流土地改良区野洲川揚水機場(同県野洲市)で県土地改良事業団体連合会の担当者が話した。
 県によると、県内は農地の面積に対して河川の水量が少ないため、農地の約4割が琵琶湖から電動のポンプで水をくみ上げる「逆水かんがい方式」をとる。連合会の試算では、ウクライナ情勢による電気代上昇で、今年度の主要24土地改良区の電気代は前年度比1・34倍の約7億円。過去10年で最高となる見込みだ。
 農家からは「米価が下落する中の負担増は農業経営に影響する」との声が上がる。連合会の60代の技術者は「原発事故が起きれば琵琶湖が汚染される恐れはあるが、再生エネルギーを模索しつつ、安全対策を万全にして原発を運用すべきだ」と訴える。

 ガス製造にも響く値上がり

 ガス業界も電気代高騰の影響を受ける。地球環境産業技術研究機構(RITE)の主任研究員、本間隆嗣さんは「ガス製造には大量の電気を使う。今回も大きな影響を受けているのでは」と話す。
 県内のガス販売業の60代男性は電気代やガスの輸入価格の上昇で仕入れの単価が上がっているとし、「一般家庭やメーカーの負担は重くなる一方。原発があるのなら稼働させればいい」と強調する。
 県内は高島、長浜両市の一部が福井県の美浜、大飯、高浜の3原発などから30キロ圏内の「緊急防護措置区域(UPZ)」に指定される。県内の住民らによる3原発の運転差し止めを求める訴訟が大津地裁で続く。
 「原発への武力攻撃が現実化した」。ロシア軍がウクライナの原発を占拠したことなどを受け、原告は武力攻撃を想定していない国の新規制基準は不適切だと主張する。原告弁護団の関口速人弁護士は「3原発が攻撃されれば、数千万人規模の避難が生じる。安全神話と決別しなければならない」と指摘する。

 「再稼働ありき」に懸念

 2011年の東京電力福島第1原発事故で福島県相馬市から滋賀県栗東市に避難した佐藤勝十志さん(61)は「電気代の高騰や燃料高を結び付けて原発の再稼働ありきで話が進んでいるように感じる」と懸念を示す。
 佐藤さんは設備業を営んでいたが、原発事故で会社をたたんだ。今は大阪地裁での原発避難者訴訟の原告に名を連ねる。「福島の人はずっと『原発は事故を起こさない』と聞かされてきたが、事故は起きた。自分たちでコントロールできないものは持ってはいけない」と訴える。【菅健吾】
KEY_WORD:ウクライナ_原発_:FUKU1_: