[2022_06_24_08]火星探査機「任務終了」(島村英紀2022年6月24日)
 
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火星探査機「任務終了」

 米国NASA(航空宇宙局)の火星探査機「インサイト」は仕事を終える。この春に引退ポーズと呼ばれる最終姿勢に入った。アームを何度も動かすことが、もうできなくなった。最後に自撮り写真を撮影した。
 最後の写真には、探査機を覆う塵(ちり)の量が2018年12月と2019年4月の写真に比べて大幅に増えた様子が写っていた。太陽電池パネルに降り積もる赤い塵は増え続けている。火星は冬を迎えて大気中に舞い上がる塵が増え、状況は一層の悪化が予想される。火星は地球よりも太陽から約1.5倍ほど遠いから、もともと太陽電池の出力は多くない。
 2018年11月に着陸して以来3年あまり、同機の探査によっていままでナゾだった内部の様子が明らかになってきた。
 ひとつはコアの発見だ。高感度の地震計の手柄だ。中心には溶けて流体となったコアがあり、その半径は約1800キロ。地球のコアより小さいが火星の直径が地球の半分ほどだから、外径の割には大きなコアを持っていることが分かった。
 しかし、リソスフェアは予想されていたよりも随分と薄い。地球では下からマントル物質がくっついて厚くなっているが火星ではマントルが冷え切っているのだろう。
 このため火星には、地球のようなプレートテクトニクスが働いていない。リソスフェアの変動によりプレートが生まれては沈みこむサイクルがない火星では、誕生初期に形成された地殻がほぼそのまま残っている。
 しかし地震はわずかだが中くらいのものが起きている。2022年5月にもマグニチュード(M)5の地震を観測した。
 火星探査の大きな目的は、生命がかつてあったかどうかを探ることだった。このため1点に留まる定置型の探査機インサイトだけではなくて搭載した探査機「パーサヴィアランス(日本語で忍耐の意味)」が動き回って、かつて生命が存在した痕跡が残る可能性がある地点で活動した。
 パーサヴィアランスは何十億年も前に湖があった「ジェゼロ・クレーター」で掘削を行って岩石を掘削することに成功した。ここは生命があったと思われているところだ。火星でそのような場所はほかに見つかっていない。
 採集した試料はいずれ地球に持ち帰る予定である。詳しくはサンプルが地球に帰ってこないと分からないが、ジェゼロ・クレーターが地球のように生物の居住が可能だった環境から現在の荒涼とした地形へと変化した。いまの気候に変化した理由は、依然として明らかになっていない。こうした変化の過程をたどれる可能性がある。
 いままでの各国の火星探査機のうち3分の1が何らかの失敗を起こしていて、失敗率が高い。今回のパーサヴィアランスでも、うまくいかなかった計画もある。「熱流・物理特性パッケージ」による温度データの解析だ。長さ45センチほどの棒状の測定装置を地中5メートルに打ち込んで地中の熱量の変化を測定する計画だった。だが、周囲の土の間に想定していたような摩擦を得ることができず、打ち込んでも跳ね返ってしまったので、計画を断念せざるを得なかったのだ。
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