[2022_06_03_04]札付き火山クラカタウ山がまた噴火(島村英紀2022年6月3日)
 
参照元
札付き火山クラカタウ山がまた噴火

 インドネシアのアナック・クラカタウ山が4月末に噴火した。
 これを受けて当局は翌日、警戒レベルを4段階の上から2番目に引き上げ、火口周辺の立ち入り禁止区域を拡大した。1883年にクラカタウ山が大噴火を起こし、この噴火後にクラカタウ山のすぐ脇に形成されたのが「クラカタウの子」を意味するアナック・クラカタウ山だ。
 今回、アナック・クラカタウ山はこの3月以降、活動を急激に活発化していた。4月24日に最大の噴火が起き、噴煙が3000メートル上空に達した。4月に入って30回近くの噴火があった。火口から放出される二酸化炭素が急増して4月15日には68トンだったが、23日には9000トンを超えた。
 クラカタウ山は札付きの火山である。過去たびたび大噴火してきた。
 西暦535年にカルデラ噴火という大噴火をしたときには、地元にあった高度な文明を滅ぼしただけではなく、世界的な気候変動を起こして人類にとっての世界的な大事件を次々に起こした。東ローマ帝国の衰退が起き、イスラム教が誕生し、中央アメリカでマヤ文明が崩壊し、少なくとも四つの新しい地中海国家が誕生し、ネズミが媒介するペストが蔓延したのはその例だ。6世紀の中世ヨーロッパは暗黒時代といわれた。社会的な衰退と混乱が長く続いた時代だった。現在までの過去二千年間で最も寒い10年間だった。
 クラカタウ火山は近年にも大噴火している。1883年に起きたカルデラ噴火は海面近くで大噴火したので大津波を発生し、地元での死者は36000人にも達した。2004年に起きたスマトラ沖地震(マグニチュード=M=9.2)までは世界最大の津波被害だった。
 この噴火のときにも世界の気候が変わってしまった。舞い上がった火山灰は世界の気候を変えた。太陽の光は1年間も暗くなった。ノルウェーの有名な画家ムンクの「叫び」の絵の背景には異様な色の夕焼けが描かれている。世界的な気候変動で引き起こされたノルウェーでの異様な夕焼けを描いたのではという学説がある。
 クラカタウ山が前回噴火したのは2018年。その際にも津波が発生して429人が死亡して多数の住民が家を失った。
 インドネシアは日本と同じく火山国だ。クラカタウ以外にも多くの被害を生んだ火山がある。
 日本でも地質学の知見から、この種のカルデラ噴火は過去10遍以上も起きている。いちばん近年のものは7300年前の鬼界(きかい)カルデラの噴火だった。この噴火は鹿児島市の南約100キロの九州南方で起きた。
 このときの噴火で放出された火山噴出物は東京ドーム10万杯分にもなった。2014年に起きて戦後最大の被害を生んだ御岳噴火は0.5 杯分だったから、はるかに大きい。
 この鬼界カルデラの噴火で九州を中心に西日本で先史時代から縄文初期の文明が絶えてしまった。縄文初期の遺跡や遺物が東北日本だけに集中しているのはこのカルデラ噴火のせいである。
 日本の次のカルデラ噴火はどこかは分からない。だがカルデラ噴火も、いつ起きても不思議ではない時期に入っている。
KEY_WORD:SUMATORA_:島村英紀_: