[2022_05_20_06]福島第1原発、処理水放出まで1年 近隣県で風評被害懸念残り(毎日新聞2022年5月20日)
 
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福島第1原発、処理水放出まで1年 近隣県で風評被害懸念残り

 東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)の処理水の海洋放出を巡り、原子力規制委員会は18日、東電の計画を了承した。ただ、近隣自治体や漁業者らの風評被害への懸念は根強い。政府と東電が放出開始を目指す2023年春まであと1年ほど。関係者の理解をどう得ていくか。課題は残されたままだ。【平家勇大】

巨大タンク群 約129万トンの処理水

 5月半ば、東電が報道各社に公開した処理水の海洋放出に向けた作業現場を取材した。
 原発周辺は放射線量が高く、一般の立ち入りは制限されている。最初に「ホールボディーカウンター」で内部被ばく線量を測り、線量の高い区域では積算線量計を1人ずつ携帯。被ばく線量が基準を超えないよう確認しながら慎重に視察した。
 大型休憩施設の7階から敷地内を一望すると、巨大なタンク群が見えた。この中身が処理水だ。貯蔵量は現在約129万トンで、23年の夏から秋ごろには全てのタンクが満杯になる見込みだという。
 放射性物質がたまった原子炉建屋などに地下水や雨水が流入すると汚染水が発生する。建屋周辺に地下水をくみ上げるバイパスや凍土遮水壁などをつくって流入量を抑えているが、それでも1日約130トンの汚染水が今もたまり続けている。
 これを浄化したものが処理水だ。汚染水に含まれる63種類の放射性物質の濃度を、多核種除去設備「ALPS(アルプス)」などで国の基準値未満に低減。この他、除去が難しいトリチウムは大量の海水で希釈し、基準の40分の1(1リットル当たり1500ベクレル)未満となるよう調整する。
 アルプスに作業員の姿はなく、建屋の中で「ブーン」という低い機械音が響くばかり。作業はほぼ自動化され、人手がかかるのはフィルターの交換など一部の作業だけという。
 少量の処理水のサンプルが入った容器を手に取ると無色透明で、一見するとただの水のようだった。容器の外側から放射線量を測ってみたが、ほとんど計測されなかった。

本格工事 福島県、立地2町は了解せず

 処理水は今後、新たに掘る海底トンネルを通じて、日常的に漁業が行われていない沖合約1キロの海底に放出する計画だ。しかし、本格的な工事に必要な福島県と立地2町の事前了解は得られておらず、作業は海底の土砂を取り除くなどの環境整備にとどまっている。
 放出に当たり、東電は海域の監視を強化する方針。国際原子力機関(IAEA)の事務局長も現地を訪れ安全性の検証を進めている。東電は周辺の住民や関係者らの視察も受け付けており、担当者は「不安を感じている地元の方にも現状を見てほしい」と話す。
 ただ、原発事故で深刻な風評被害に苦しんだ漁業者らは不安を拭えない。懸念の声は福島だけでなく、近隣県からも上がっている。
 宮城県漁業協同組合の寺沢春彦組合長(60)は「水産県の宮城で風評被害による打撃は大きい」と語気を強める。事故後、同県ではそれまで年間約7000トンを韓国に輸出していた名産のホヤが禁輸され、生産調整せざるを得なくなった。
 宮城県は21年から政府や東電と官民で風評被害対策を話し合う「県連携会議」を5回開いたが、漁業者などから「国の対策は不十分だ」と批判が続出。次回会議では県が独自の対策案を提言する。
 国や東電は岩手、茨城県などでも説明会を開いているが、漁業者らの反発は大きい。寺沢さんは「漁業者は風評被害に苦しんで何とかやってきた。国や東電の立場も理解しているつもりだが、漁業者の立場も分かってほしい」と話している。
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