[2022_04_15_06]難問続出の「津波避難タワー」(島村英紀2022年4月15日)
 
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難問続出の「津波避難タワー」

 2011年の東日本大震災以後、全国で500棟余りの「津波避難タワー」が整備された。震災前には45棟にとどまっていたから、11倍に増えたことになる。ほとんどは海岸沿いで、近くに高台がないところだ。その7割が関東以西の太平洋側で、最多は静岡県の139棟、次いで高知県の115棟だ。
 ところがその津波避難タワーを建設しても使われないケースが目立つ。3月16日深夜に福島県沖で起きた地震では、宮城県石巻市大宮町での震度は5強だったが、タワーに上る人はいなかった。他のタワーも上った人は少なかった。
 大宮町では東日本大震災で42人が犠牲になった。石巻市全体では死者・行方不明者は,約4000人、浸水域人口当たりの死亡率も高く3.4%と甚大な被害だった。
 その後、このタワーは住民の要望で作られたもので、2015年に建てられた。高さ13メートルになる。ここは高台まで徒歩で約30分かかる。3月16日の地震は東日本大震災(地震名は東北地方太平洋沖地震)の余震だ。まだまだ続くし、もっと大きいものが来る可能性がある。
 しかもタワーは60段以上の階段を上らなければならず、年寄りにはきつい。東日本大震災直後の調査で55%が65歳以上だったし、高齢者と身体障がい者の死亡率は、市町村にもよるが、2〜4倍以上にも上ったほどだから、高齢者の避難は大きな問題になる。
 しかもタワーは吹きさらしで寒い。その上、深夜だ。ほとんど誰も上がらなかったわけである。
 そのほか、タワーが必要なのに作れないケースが続出している。それはタワーの建設には国庫補助に差があるからだ。国庫補助の差とは、2014年に南海トラフ巨大地震の被害想定地域で、補助の割合が3分の2に上がって整備が加速したことだ。高知県は2018年度までの6年間、市町村に対して建設費の3分の1を支援し、国の補助と併せると自治体の実質負担をゼロにする制度を設けた。
 他方でそれ以外の地域では国の補助が通常の2分の1の地域に留まっている。県の補助もない。補助が少ない地元自治体は自己負担金として億単位の金が必要だが、それを支出できない自治体が多い。
 国の施策では南海トラフ地震だけが厚遇されている。しかし、北海道と東北の巨大地震や南西諸島の巨大地震が同様に迫っているなかで、南海トラフ地震だけが厚遇されていていいのだろうかという疑問が残る。
 北海道と東北の巨大地震で最大23メートルの高さの津波が予想される北海道・浜中町では、南部沿岸に高台や高層の建物がない。タワーの必要性は高いが、地元の町は、国の補助があっても自己負担分の捻出が難しい。
 岩手・久慈市は2016年に復興交付金約2億円を使って高さ約9メートルのタワーを建てたが、北海道と東北の巨大地震の国の想定で津波は最大16メートルとされたために昨年3月に使用を中止した。土地のかさ上げや建て替えには多額の費用がかかる。その費用の捻出に苦しんでいる。
 タワーは多くの地方自治体に問題を課しているのだ。
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