[2022_04_08_01]ミャンマーの危険なヒスイ採掘(島村英紀2022年4月8日)
 
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ミャンマーの危険なヒスイ採掘

 ウクライナのニュースの陰に隠れてしまったが、昨年の軍のクーデターで話題のミャンマー。知る人ぞ知るヒスイの世界的な産地だ。
 ヒスイを知っているだろうか。緑色に輝く宝石だ。5月の誕生石にエメラルドとともに数えられている。非常に頑丈なので、先史時代には武器の材料でもあった。ヨーロッパではヒスイ製の石斧がよく出土する。
 ミャンマーにはヒスイのほかにエメラルドやルビーも出る。宝石や貴石が多い国だ。いずれも地球のマントルから数千万年前に起きた火山活動で運ばれて来た。日本には出ないが、出るところには出る。太古の昔にマントルの深部から来た。
 そのミャンマーのヒスイ鉱山で地滑りが起きて1人死亡、70〜100人が行方不明になった。ヒスイが集中している北部のカチン州パカンにあるヒスイ鉱山のことだ。
 近年、数多くの事故が発生している。この事故の数日前にも地滑りが発生して少なくとも10人の労働者が行方不明になったばかりだ。1年前にも160人以上が死亡する大災害が起きた。
 地滑りは、露天掘りの鉱山地帯にトラックが捨て石を廃棄して斜面を作り、それが崩れたことが原因と考えられている。ゴミの山からも、そこそこの高値がつくヒスイのかけらを探し求める労働者は、危うい環境に身を置いていたのだ。じつは犠牲者の多くは不法労働者だった。貧しい人々が犠牲になったのである。
 ヒスイの不法採掘は禁止されている。しかし現地住民らは規制に従わないことも多い。同地域は仕事が少なく、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で貧困状態が悪化して違反者を増やしている。夜に違法採掘をして崖から転落して犠牲になった労働者も多い。
 ミャンマーは世界最大のヒスイ産出国で、取引額は年間数兆円に上る。ミャンマーの国内総生産(GDP)の半分にも相当する。
 しかし労働者には収入はほとんど入らない。しかも、この天然資源による膨大な利益のうち、ミャンマーの国庫に入るのはごく一部にすぎない。
 陰でもうけているのは国軍だ。最高品質のヒスイは、国境を越えて中国へ密輸されている。ミャンマーから中国への輸出は18世紀の清時代からの長い歴史がある。
 この密輸は、軍部エリートと麻薬密売組織のネットワークによって支配されている。EUや米国などからの制裁が科されてもなお、ミャンマー軍の上層部は莫大な富を手にしている。
 ミャンマーのヒスイ売上高の公式発表と、中国がミャンマーから輸入したヒスイの金額の記録が大きく食い違っている。これは、大々的に汚職が行われているという明白な証拠だ。
 ヒスイは中国では古くから人気が高い宝石で、金以上に珍重される。漢字では「翡翠」と書く。古くは玉(ぎょく)と呼ばれ、ヒスイは他の宝石よりも価値が高いとされた。昔から腕輪などの装飾品や器、また精細な彫刻をした置物などに加工され、愛用されてきた。
 あなたは知らないで宝石を身に着けているかもしれない。だが、宝石は汚れた手を通ってきたのかもしれないのだ。
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