[2022_03_31_06]電通が受注「ALPS処理水は安全チラシ」学校配布に福島の保護者が困惑(女性自身2022年3月31日)
 
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電通が受注「ALPS処理水は安全チラシ」学校配布に福島の保護者が困惑

 「学校にまでこんなチラシを配ろうとするなんて……。“ゆるキャラ”のトリチウムで大炎上したことを忘れたのでしょうか。このチラシには〈知ることが大事〉と書かれているけど、安全のアピールばかり。トリチウムは、ここまで“安全”と言い切れるものではないはず。こんな不確かな情報を子どもたちに広めていいのでしょうか?」

【図解あり】)もともとは”ゆるキャラ”が描かれていたが…

 そう憤るのは、福島県いわき市在住で中学2年生の子どもをもつYさんだ。Yさんが言う“チラシ”とは、政府が2023年度から海に流そうとしている放射性物質トリチウムを含む“ALPS処理水”の「安全性」について書かれたもので、昨年12月から全国の公立小中高に配られ、問題になっている。
 福島県から東京都武蔵野市に避難しているOさんも、子どもが通う小学校で3月初めに配られた、とこう続ける。
 「廃炉にあたる作業員の人手も足りないと聞いています。こうやって子どもたちに安心感を与えて、大人になったとき廃炉作業に駆り出したいのでは、と勘ぐってしまいます」

■消されたトリチウムの“ゆるキャラ”

 チラシは2種類ある。ひとつは、資源エネルギー庁が作成した「復興のあと押しはまず知ることから」と書かれた小学生向けのチラシ。もうひとつは、復興庁が作成した「ALPS処理水について知ってほしい3つのこと」と書かれた中高生向けのチラシだ。
 このうち復興庁が作成したチラシは、Yさんが指摘するように大炎上した過去がある。政府が、ALPS処理水の海洋放出を決定した2021年4月12日の翌日、同庁が「安全アピール」をするためか、動画とともに、このチラシをホームページにアップした。
 ところが、トリチウムを、まるで“ゆるキャラ”のように描いていたため、不謹慎だと非難を浴び、すぐに削除したのだ。そのあと、ゆるキャラを「T」マークに変えてリニューアルしたのが、今回、学校に配布されたチラシというわけだ。
 2種類のチラシには、いずれも「トリチウムの健康への影響は心配ありません」「人間が食べたり、飲んだりしても健康に問題のない安全な状態で処分されます」などと書かれ“安全”がアピールされている。しかし、岩手・宮城・福島などの被災3県の学校では、このチラシが再び物議を醸し、配布を見合わせているところも少なくないという。その理由について、日本共産党・福島県議会議員の神山悦子さんは、こう指摘する。
 「国や東電は、〈関係者の理解なしにいかなる処分も行わない〉と言っていたのに、その約束を反故にして海洋放出を決めました。ですから今でも反対している人は多く、非常にデリケートな問題なんです。にもかかわらず、教育委員会になんの説明もなく、いきなり学校にチラシを送ってきた。いままでこんなことはなかったそうです」
 チラシの中身も大問題だという。
 「『取り除けるものは徹底的に取り除き、大幅に薄めてから海に流します』などと安全をアピールしていますが、ALPS処理水にはトリチウム以外の放射性物質が62種類と炭素14も含まれていて、本当に取り切れるかどうかもわかりません。そもそも処理水の総量が多いのに、うすめたら安全というのも疑問があります」

“原発”安全神話から“放射能”安全神話へ

 東電は、年間22兆ベクレル/kgのトリチウムを含むALPS処理水を、約30年かけて海に流す計画を立てているが、それでも事故前の10倍のトリチウム量になるという。
 「原発事故が起きる前から、国や東電は子どもたちに広報誌を配ったり、原子力をPRするような標語を作らせたりして“原発は安全”と刷り込みをしてきました。それが事故後は、“放射能は安全”という刷り込みに変わっただけです」(前出の神山さん)
 こうした“安全アピール”にかかる宣伝費用は、言うまでもなく税金から支払われている。
 国や福島県に行政文書の情報公開請求をすることで、“風評払拭”にかかる多額の費用が広告会社「電通」に流れていたことをつきとめた野池元基さん(たぁくらたぁ編集長)は、こう指摘する。
 「“ゆるキャラ”のトリチウムが載ったチラシや動画も、電通が復興庁から3億700万円で受注した事業の一環だったことが明るみに出て問題になっていました。しかし、そのわずか10日後の4月23日には、今度は資源エネルギー庁が電通に、『ALPS処理水に係る地域対応・国民理解醸成活動等事業』として3億9050万円で委託契約しているんです。今回のチラシ作成費用も、こうした事業費から出ている可能性もあります」
 これについて、編集部が資源エネルギー庁に問い合わせたが、期限までに回答はなかった。しかし、上記だけに留まらない、と野池さん。
 「原発事故後から2021年末の間だけでも、国や福島県から“風評被害”払拭の名のもとに約300億円のPR事業が電通に委託されていたことが情報開示請求によってわかっているのです」
 本気で“風評被害”を払拭したいなら、子どもたちに“刷り込み”をするのではなく、地元の声を聞き、ALPS処理水の海洋放出こそ見直すべきではないだろうか。
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