[2022_03_27_01]核の恐怖、今さら気付いた「有事には原発が攻撃対象となる」現実【コメントライナー】(時事通信2022年3月27日)
 
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核の恐怖、今さら気付いた「有事には原発が攻撃対象となる」現実【コメントライナー】

 ◆時事総合研究所代表取締役・村田 純一◆

 ロシア軍によるウクライナの原子力発電所への攻撃に、世界は震撼(しんかん)した。
 ロシア軍は2月24日、ウクライナへの侵攻を開始し、1986年に爆発事故を起こした北部のチェルノブイリ原発をいち早く占拠。3月4日には、南東部にある稼働中のザポロジエ原発を砲撃し、制圧した。
 もし、欧州最大級のザポロジエ原発が爆発すれば、チェルノブイリ原発事故の10倍の被害にもなるという。周囲の放射線量に変化はないと報じられたが、ロシアは原発敷地内で弾薬を爆発させたりしている 。
 電力の大半を原発に依存するウクライナの急所を押さえ、恐怖心を与えるのがロシアの狙いか。ロシアは「核を人質にした」と非難されている。有事の際、原発は攻撃対象になることが、これではっきりした。

 ◆怖いものなし

 「ロシアは核大国だ」と豪語し、核兵器使用をちらつかせるロシアのプーチン大統領。
 ロシア政治に詳しい廣瀬陽子慶応大教授が日本記者クラブの会見で、「ウクライナ侵攻に合理的な説明はできない」「もうプーチンに怖いものはない」と語っていたことは印象に残った。
 世界保健機関(WHO)の発表によれば、ロシアの平均寿命(2019年)は73.2歳で、男性は68.2歳。プーチンは既に69歳で、ロシア男性の平均を上回っている。
 プーチンが自身の余命をどう思っているのかは知らないが、あの男が「核のボタン」を持っていることは今や全世界の恐怖だ。
 狂気(=怖いもの知らず)の独裁者に対し、核抑止論は通用しない。理性のある国家指導者は、「核対核」の全面戦争、人類の滅亡につながる核攻撃は決断しないと思うが、プーチンは違うかもしれない。
 スタンリー・キューブリック監督の「博士の異常な愛情」という古い映画を思い出す。米ソ冷戦時代、精神に異常を来した米国の将軍がソ連への核攻撃を命令して展開される、ブラックユーモア満載のフィクションだ。
 とはいえ、現実の「核」の恐怖をまざまざと感じさせ、ソ連は核攻撃されると、自動的に人類滅亡の報復攻撃を発動するという設定だった。現実の世界では決してあり得ない、と言いたいところだ。

 ◆色もにおいもない恐怖

 あのチェルノブイリ原発事故は時事通信入社直後だった。初任地の福岡で、九州電力前の原発反対デモを取材、その配信記事は初めて新聞に掲載された。まだ、日本の原発は安全だと信じていた。
 政治部デスクの時、社の出版物に「被爆二世として」と題した署名のコラムを書いた。オバマ米大統領(当時)が「核兵器のない世界」を訴えたプラハ演説や、長崎出身の被爆者である父の体験にも触れた。
 最後は「核兵器廃絶は決して夢物語ではないと信じたい」と理想論を書いた。
 2011年3月11日、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故で、日本の原発は安全だという「原発神話」は崩壊した。
 数カ月後、野田政権の時、福島第1原発の首相視察に同行する機会があり、福島原発20キロ圏内で防護服に着替えて取材。色も、においもない放射能の恐怖を感じた。
 ウクライナ危機に関連し、安倍晋三元首相は日本の「核兵器の共有」議論に言及。与野党からは、原油価格高騰を理由に原発再稼働を求める声が出た。核兵器と原発のリスクに考えが及ばない人たちにはあきれている。
 唯一の被爆国である日本で、米国の核兵器の共有はあり得ない。3月16日には震度6強の地震が宮城、福島両県で起きたばかりだ。
 有事に原発へのミサイル攻撃は防げるのか。政府は野党の質問にまともに答えない。今も「核」の恐怖は消えない。(一部敬称略)

 (時事通信社「コメントライナー」より)
 村田 純一(むらた・じゅんいち)
 1986年早大法卒、時事通信社入社。福岡支社、政治部、ワシントン特派員、政治部次長兼編集委員、総合メディア局総務、福岡支社長を経て、2020年7月より現職。政治部では首相官邸、自民党、民社党、公明党、防衛庁、外務省などを担当し、政治部デスク歴は約7年。時事通信「コメントライナー」の編集責任者で政治コラム等も執筆。
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