[2022_03_23_03]田原総一朗「東日本大震災から11年も廃炉作業の非現実的な工程」〈週刊朝日〉(アエラ2022年3月23日)
 
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田原総一朗「東日本大震災から11年も廃炉作業の非現実的な工程」〈週刊朝日〉

 原発事故から11年。ジャーナリストの田原総一朗氏は、廃炉への道筋がいかにあやふやかを指摘する。
 東日本大震災で東京電力福島第一原発が大事故を起こしてから、今年の3月11日で12年目に入った。
 私は11日の東京新聞の社説を読み、暗然たる気持ちになった。
 社説によれば、事故後、政府と東電が策定したロードマップでは、事故処理は遅くても40年ですべての工程を終えることになっていたが、廃炉までの工程表をよく見ると、何をすべきか、費用がいくらかかるのか、決められていないという。
 事故発生から11年がたって、ようやく最も難しい作業である燃料デブリの試験的な取り出しに2号機から取りかかることになったようだが、溶け出して、冷えて固まった濃度の高い放射性物質の塊であるデブリは、原発3基で計880トンと推計されていて、今後約30年の間、1日当たり80キロずつ取り出さなければならないようだ。これは現実的な数字なのだろうか。そうではないと考えるのが自然だと私は捉えている。
 さらに、原発事故の収束費用は約22兆円で、東電が負担する廃炉費用は8兆円と見積もられている。その中にデブリなど廃棄物の処分費用などは含まれていない、というのだから驚きである。
 東京新聞が、実際いくらかかるのか、と東電に問うと、「何をもって『廃炉』とするのか、その最終形が決まっておらず、明確にお答えするのは難しい」との回答だったという。
 本当に廃炉までの道筋が見えているのだろうか。
 東電の工程表では、「使用済み燃料の取り出し開始まで」を第1期、「デブリの取り出し開始まで」を第2期とし、それ以降、廃炉完了までの第3期に関しては、作業開始から「30〜40年後」と期限が切られているだけだそうだ。
 具体的に何をするかが書かれていない現状に対して東京新聞は<東電の工程表を現在の技術レベルに照らして見る限り、今後三十年足らずのうちに、跡地や地域を「安全な状態」にできるとは思えません>と書いている。
 さらに東京新聞は<ロシアによるウクライナの原発に対する攻撃が世界を震撼させる中、とてつもなく危険で、お金がかかる原発という施設のやっかいさ、原発を持つことの恐ろしさについて、あらためて考えずにはいられません>と強調した。
 ところで、岸田文雄内閣では、昨年秋、2030年の日本のエネルギー基本計画を閣議決定した。
 実は、15年12月に、世界の先進国の代表が集まって、パリ協定なるものが定められた。地球の平均気温が2100年までに3度以上高くなるとされていて、気温上昇を産業革命前に比べて1.5度までに抑えておこうというのである。
 そこで欧州の先進国はいずれも、2050年までに温室効果ガス排出ゼロを打ち出したが、当初、米国と日本はこれに同調しなかった。
 だが、トランプ大統領からバイデン大統領になって、米国はパリ協定に同調した。日本の菅義偉首相(当時)も合わせるようにして50年温室効果ガスゼロを打ち出している。
 岸田内閣では、再生可能エネルギー36〜38%、原発は約30基の稼働が必要な数値を発表しているのだが、政府の幹部たちは、原発30基が実現すると本気で考えているのだろうか。

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数
※週刊朝日  2022年4月1日号
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