[2021_11_26_10]原子力広報紙、1年ぶり「第2号」 運転差し止め判決 記述なく(東京新聞2021年11月26日)
 
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原子力広報紙、1年ぶり「第2号」 運転差し止め判決 記述なく

 日本原子力発電東海第二原発(東海村)を巡る県の取り組みを発信する広報紙「原子力広報いばらき」の第二号が今月一日、発行された。昨年十一月の第一号から一年が経過しているが、県の有識者会議の活動などを詳しく紹介する一方、東海第二の運転差し止めを命じた今年三月の水戸地裁判決をはじめ、この間にあった重要な出来事についての記述はなし。「通達のようだ」「県民の思いを軽く考えている」との声が上がっている。(宮尾幹成)
 広報紙は、県広報紙「ひばり」と併せて新聞折り込みで配達。全県向けと、東海第二の重大事故に備えた広域避難計画の策定を義務づけられている三十キロ圏の十四市町村向けの二種類があり、今回はいずれもA4判四ページだ。
 十四市町村向けでは、「実効性ある避難計画」の策定に向けた課題や取り組み状況を特集。放射性ヨウ素による被ばくを抑える安定ヨウ素剤の配布体制や、事故時の応急対策活動の前線基地となる「オフサイトセンター」の役割を説明している。
 だが、避難計画がテーマにもかかわらず、計画の実効性が確保できていないことを理由とした水戸地裁判決は取り上げていない。
 避難所の収容人数を非居住スペースも含めて過大に算定していた問題や、有床医療機関と入所型社会福祉施設の避難計画策定が進んでいない問題も、県議会でも質疑があったにもかかわらず言及がない。
 こうした編集方針に対し、東海第二周辺に人口が密集するにいたった歴史的経緯を研究してきた茨城大元教授の乾康代さん(68)=水戸市=は、「地裁判決は避難計画の根本問題を突きつけたのだから、県の考えや方針をきちんと説明するべきだ」と批判する。
 東海第二差し止め訴訟原告の川澄敏雄さん(72)=茨城町=は、避難所の収容人数算定に関して「知事は(一人当たり面積の)二平方メートルを見直すと言明したのに、そのことを書いていない。議会答弁を紹介するべきだ」と注文を付ける。
 福島第一原発事故で避難した子どもたちを支援する「福島応援プロジェクト茨城」事務局長の小張佐恵子さん(69)=土浦市=は、実際に避難することになった際に必要な、車両や衣服に放射性物質が付着しないようにするといった心得について「ほとんど紹介されていないのはいかがなものか」と苦言。「県は、原発事故で県民が被災者、被害者になるかもしれないことに痛みを感じないのだろうか」と訴える。
 「年一回のペースで、この内容?」。全県向けの広報紙を手にして拍子抜けしたのは、昨年、東海第二の再稼働の賛否を問う県民投票条例制定を約八万七千筆の署名を添えて大井川和彦知事に直接請求した「いばらき原発県民投票の会」で共同代表を務めた徳田太郎さん(49)=つくば市=だ。
 全県向けでは、東海第二の地震対策に関して、県原子力安全対策委員会の「安全性検討ワーキングチーム(WT)」による検証作業の状況を三ページを割いて解説。残る一ページで、日本原子力研究開発機構の研究用原子炉や核燃料加工施設などの重大事故時に屋内退避や避難を求められる地域を紹介している。
 徳田さんは、「月一回のペースなら部分的な深掘りもあり得るが、年一回ならより網羅性が問われるのでは」と指摘。「情報の受け手を考えていない、ノルマ意識に基づく『作業』にとどまっている印象だ」と疑問を投げ掛ける。
 乾さんも「紙面のみで年一回では、まるで通達のようだ」と話し、「ツイッターやブログなどのツール活用も検討されていい。よりオープンで伸びやかな広報を」と求めた。
 県原子力安全対策課の織裳祥一課長補佐にこうした意見を伝えたところ、「今後の参考にさせていただきます」と回答した。
 広報紙は第一号、第二号とも県のウェブサイト=「原子力広報いばらき」で検索=でも閲覧できる。第三号は来年三月までの発行を予定している。
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