[2021_10_27_06]社説:原発政策 福島の10年に向き合え <衆院選10・31>(京都新聞2021年10月27日)
 
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社説:原発政策 福島の10年に向き合え <衆院選10・31>

 東京電力福島第1原発事故から10年。今なお3万人近くが福島県外に避難を強いられ、廃炉の見通しも立たない。
 原発は電力の安定供給に役立つとされる一方で、取り返しのつかない災禍をもたらすことを、多くの国民は思い知ったはずだ。
 衆院選は有権者が原発に向き合う機会と言える。
 先週、閣議決定された「エネルギー基本計画」は、冒頭で福島原発事故は「エネルギー政策を進める上での全ての原点」と明記している。
 ただ、「原点」という割には原発の位置付けは明確ではない。「可能な限り依存度を低減する」としながら、2030年度の電源構成を20〜22%で据え置き、「必要な規模を持続的に活用する」とした。実現には再稼働させる原発を30基程度に増やす必要がある。
 各種世論調査では原発廃止、削減を求める回答が最も多く、国民の意思を反映していない。
 昨年、菅義偉前首相が50年に温室効果ガス排出を実質ゼロにすると宣言したことで、原発に再び目が向けられた。稼働中に二酸化炭素を出さず、電力を安価に安定供給できるとの理由からだ。
 しかし、経済産業省が8月に示した30年時点の発電コスト試算によると、最安とされた原子力が上昇し、再生可能エネルギーに対する優位性が逆転している。
 原発を巡る各党の公約を見渡すと大きな幅がある。自民は安全を前提にした原発活用だが、同じ与党の公明は将来の原発ゼロも唱えている。立憲民主や共産など4野党は「原発のない脱炭素社会の追求」を共通政策に掲げ、国民民主は当面の原発利用を認める。
 ただ、公約にあっても、選挙戦では大きな争点になっていない。自民は原発に否定的な有権者の存在を意識し、立民は原発関連企業の労働組合を抱える連合の支援を受けており、脱原発を前面に打ち出す場面が少ないのではないか。
 エネルギー問題は産業だけでなく生活に直結する。太陽光や風力など再生エネルギーの拡大が、脱炭素社会実現への鍵を握っている。同時に原発ゼロに近づく道となる。
 エネルギー計画でも再生エネは最重要電源とされたが、課題は少なくない。太陽光設備などが自然破壊や災害を招くとして住民の反対運動も起きている。
 原発や再生エネは将来に関わる問題だ。掘り下げた論争を展開してもらいたい。
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