[2021_10_23_03]自民党の本音?岸田首相の「原発新増設」めぐる発言(毎日新聞2021年10月23日)
 
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自民党の本音?岸田首相の「原発新増設」めぐる発言

 今回の衆院選の争点の一つは原発をはじめとするエネルギー政策だ。東京電力福島第1原発の事故以降、脱原発を求める世論が高まる中、岸田文雄首相や自民党の甘利明幹事長ら与野党幹部の発言が注目されている。
 衆院選公示前日の10月18日、日本記者クラブ主催の党首討論会が開かれた。岸田首相は「2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)で再生可能エネルギーが基軸であることはその通りだが、電力の安定供給、価格を考えた場合に再エネ一本足打法では応えられない。ぜひ他の選択肢も必要ということで、原発もその一つとして認めている」と、従来の考えを繰り返した。
 岸田首相は前日の17日、福島県の東電福島第1原発を訪れ、廃炉作業や処理水をめぐる現状を視察した。その際、記者団から「首相は今後、原発の新増設やリプレース(建て替え)を行う考えはあるか」と質問されたが、明確に答えなかった。

 ◇「新増設の議論しっかり行う」

 このため党首討論会では、記者から「原発の新増設について自民党は認めているということでよいか」と質問が出た。
 これに対して岸田首相は「まずやるべきは原発の再稼働。その次に出てくるのが40年、60年という使用期限の問題だ。古い原発を使うなら、リプレースする必要があるのではないかという議論もある。この議論をしっかり行った上で方針を決めたいが、まずは再稼働にしっかり取り組みたい」と述べた。
 岸田首相は自民党総裁選でも「まず再稼働に取り組む」と繰り返し表明してきたが、リプレースを含む新増設については明言を避けてきた。今回の党首討論では、原発の新増設について「しっかり議論する」という表現ながら、踏み込んだ格好となった。
 自民党は今回の衆院選の政権公約で「安全が確認された原発の再稼働」のほか、小型モジュール炉(SMR)と呼ばれる小型原発の地下建設や核融合炉の開発などを掲げている。しかし、原発のリプレースを含む新増設については明記していない。先の自民党総裁選でも既存原発の新増設を公言する候補はいなかった。
 これは世論を意識しての判断とみられる。元自民党幹事長の中川秀直氏は今年2月の記者会見で「与党も原発の再稼働は主張しているが、新増設は口にもできない。これは(脱原発を求める)世論の力だと思う」と述べている。

 ◇公明党は「新設認めない」

 今回の衆院選の主要政党の中で、原発推進を掲げているのは自民党と「NHKと裁判してる党弁護士法72条違反で」だけだ。野党の立憲民主党はもちろん、与党の公明党も「原発の新設を認めず、将来的な原発ゼロを目指す」としている。
 このため自民党も原発の新増設には慎重に対応しているとみられるが、自民党内にはベテランを中心に原発推進派も根強い。
 自民党の甘利幹事長は17日のNHKの番組で、原発の新増設について「安全な原発、SMRは河野太郎さんですら賛成をしている。だから、より安全なもの、全電源が途絶えても自分で冷却できるという仕組みのものは入れ替えていく必要はあろうかと思っている」と述べた。
 脱原発派の河野氏は自民党総裁選でSMRについて「経済性もなく、おそらく立地できるところはない。消えゆく産業が最後にあがいている」と、民放番組で痛烈に批判している。甘利氏が河野氏に言及した意図はわからないが、甘利氏のような原発推進派は原発を新増設したいのが本音だろう。
 一方、岸田内閣では山口壮環境相のように脱原発を自身のホームページで公表する閣僚もいる。
 自民党内は原発の新増設を目指す推進派から、将来的な原発ゼロを目指す脱原発派まで、多様化しているのが現実だ。31日の投開票に向け衆院選の論戦が活発化する中、自民党はじめ与野党の幹部や各候補がどんな発言をするか注目される。
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