[2020_12_31_01]核のごみは世界の課題 もっと関心を ジャーナリスト、カルメン・グラウさん(毎日新聞2020年12月31日)
 
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核のごみは世界の課題 もっと関心を ジャーナリスト、カルメン・グラウさん

 高レベル放射性廃棄物(核のごみ)最終処分場選定に向け、北海道の寿都町と神恵内村で初めて文献調査が始まった。現地を取材した外国人ジャーナリストの目にどう映ったのか。日本の社会問題を海外に発信しているカルメン・グラウさん(36)に話を聞いた。
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 ――なぜ文献調査の問題を取材しようと思ったのですか。
 ◆核のごみの処分は、日本だけでなく世界共通の問題です。しかも身近に感じることが難しいからこそ、今起きていることを広く伝える必要があると思いました。現地の人がどう考えているかも知りたかったのです。

 ――実際に神恵内村を訪れ、村民に話を聞いた印象は。
 ◆驚きました。村人6〜7人に話しかけましたが、ほとんどが文献調査に関心がないように思えたからです。自分の村のことなのに「原発が近くにあるから」「文献調査だけで終わるから」などと言い、楽観や諦めを感じました。

 ――なぜそのような状況が生まれているのでしょう。
 ◆日本人の特徴と言えるかもしれませんが、国や行政に強く意見しない印象があります。母国スペインでは、新型コロナウイルスで死者が約5万人に上る大変な状況で、医療関係者が職場環境の改善を求めてデモを起こしました。何かあれば「とりあえず声を上げておこう」と考える欧米とは、やはり意識の違いを感じました。

 ――これまで進まなかった処分地選定の議論が、この数カ月で一気に進みました。
 ◆寿都町も神恵内村も、応募や受け入れを決めるまでがあまりに早かった。スペインは原発は数基しかなく、簡単に比べられませんが、日本は世界有数の原発使用国。災害も多く、何より福島で原発事故を経験している。それなのに、透明性のある議論があったとは思えず疑問です。

 ――国は文献調査を受け入れた自治体に最大20億円を出します。
 ◆国は交付金を使って田舎に押しつけようとしている印象です。都会よりも田舎は人間関係の結びつきが強い傾向があり、対立を招くような声が上げにくいと思います。もし東京に処分場を作ると言われたら東京に住む人はどう反応するでしょうか。国民全体が問題意識を持つことは重要ですが、幅広い議論をできる方法を国が考えるべきです。

 ――取材を通して見えた問題とは。
 ◆日本では、神恵内村のように高齢化や人口減少、産業の衰退が進む自治体が今後増えていきます。住民一人一人がまちづくりに関心を持たなければ、今回のように十分な議論もせず、お金を目的に国の思い通りに動くことを選ぶ自治体が増えてしまうのではないでしょうか。国にも自治体にも、もっと若いリーダーが議論を先導していく必要があると感じました。【聞き手・高橋由衣】

 ◇カルメン・グラウさん
 アジアを専門とするスペイン人ジャーナリスト。英語、スペイン語、フランス語で発信するニュースサイト「Equal Times」の特派員として、2018年に来日した。災害の歴史を専門にスペインのマドリード・コンプルテンセ大学大学院の研究者としても活動している。千葉県在住。
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