[2020_12_11_04]続く苦悩、復興へ歩み 東日本大震災9年9カ月 福島は今(茨城新聞クロスアイ2020年12月11日)
 
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続く苦悩、復興へ歩み 東日本大震災9年9カ月 福島は今

 東日本大震災から9年9カ月。水素爆発を起こし大量の放射性物質を放出した東京電力福島第1原発周辺の街は、復興作業が進む一方、避難住民の帰還はまだまだ進んでいない。原発では廃炉作業が進められ、原発から出た汚染水を処理した後に増え続ける放射性物質トリチウムを含む処理水の処分方法を巡り、漁業者が悩みを深めていた。来年3月11日の震災10年を前に、現地の人々の声などをリポートする。

■むき出しの鉄骨

 原発を目指して国道6号を北上し、富岡町から双葉町に向かうと帰還困難区域に入った。軽車両や歩行者は通行できず、人の姿はほとんどない。家や商店の入り口はバリケードで封鎖されている。家屋は荒廃し、田にもススキなどの雑草が生い茂り、荒れていた。
 原発に入るためには身分証明など何重ものチェックを必要とし、緊張感が漂った。線量計を身に着け、構内をバスで移動。降車できたのは爆発で上部の鉄骨がむき出しになっている1号機近くだけだった。
 2011年3月11日。13〜15メートルの大津波が原発を襲った。全交流電源を喪失した原発は、機器の制御が不能となって原子炉建屋が水素爆発を起こし、放射性物質をまき散らした。
 あれから9年9カ月。いま原発では毎日約4千人が廃炉作業に携わる。爆発を起こした1、3、4号機のうち4号機は、燃料プールからすべての燃料の取り出しが終了。3号機も7割以上の燃料を取り出した。爆発を免れた2号機も燃料取り出し作業の準備を進めている。1号機はまだ建屋上部のがれきを撤去する段階にある。

■悩ましい処理水

 30〜40年かかるとされる廃炉作業はおおむね順調に進んでいるようだ。課題は「処理水をどう処理するか」(東電担当者)だった。
 東電によると、今年9月時点で処理水は123万トンに上る。タンクに保管しているものの、タンク容量は22年夏にも限界に達するとされ、政府は海洋放出を含めて検討している。
 処理方法を巡って地元漁業者は危機感を深めている。試験操業を繰り返す中で資源量の増加が分かり、風評被害もある程度収まっている。来春から本格操業を計画しているだけに「福島の漁業者が最も頭を悩ます問題」と、地元で4代続く50代の漁師は苦悩する。男性は「個人的な考え」と断った上で「反対。エゴと言われるかもしれないが、単に自分の職場が汚されたくない、ただそれだけ」と語った。

■住みたいまちに

 苦悩するのは漁業者だけではない。住民の苦しみも続いていた。
 富岡町で震災の記憶を語り継ぐ活動をしている女性は「崩壊と創生のはざまで私自身も生きていると思う。どこにも創生しているという実感がない。まだはざま」と語った。1万5千人ほどいた住民は、今や1500人ほどだ。
 話を聞く中で、女性は最後にこの言葉を示した。
 〈除染で線量は下がっても人生を取り戻すことはできない。人の心の復興にはまだまだ時間がかかる〉
 双葉町の伊沢史朗町長は、まちの復興に意欲的だった。今年3月、町の一部が初めて避難指示解除準備区域となり、住民の居住再開を目指す。農業の再生や企業誘致、公共交通の整備を進める考えを示し「(住民が)戻って住みたいまちにしたい」と前を向いていた。
 地震、津波、原発事故という複合災害に見舞われた福島の人々。10年がたとうとしている中で苦悩は続くが、復興への歩みも着実に進めていた。
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