[2020_12_04_20]首都を襲う「荒川決壊」の恐怖(島村英紀2020年12月4日)
 
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首都を襲う「荒川決壊」の恐怖

 東京など首都圏で恐れるべきは直下型地震だけではない。水害も大きな災害になる。
 今年は台風の上陸はなかった。これはたまたまで、この10年間は最低でも2、最高は5個あった。2004年には10個も上陸した。
 最近の調査で、昨年の台風19号では首都圏を流れる荒川が決壊する可能性があったことが明らかになった。この台風では、さいたま市西区の観測所では史上最高で13メートルを超えた。全国では国管理河川の14ヶ所、県管理河川の128ヶ所で決壊が起きた。
 当時、気象庁が出していた複数の雨の予想をもとに水位を計算した結果、荒川の氾濫は十分に起こり得ることが分かったのだ。複数とは、台風が上陸する10時間前に気象庁が発表していた21通りの予測だった。気象庁の予測よりも雨量が少なかったことは幸いだったが、紙一重だった。
 もし荒川が決壊すると、最悪の場合、北は埼玉・川越市から南は東京23区の広い範囲で浸水する危険性がある。
 仮に埼玉・志木で決壊が発生すると、近くでは6メートルもの浸水。2階でも水没してしまう。
 都内でも浸水が広がり、板橋区高島平駅の周辺では3メートル、北区浮間舟渡駅前でも4メートルで1階が水没する浸水が想定されている。決壊ヶ所から約15キロ下流の北区赤羽岩淵駅でも1メートルの浸水が想定されている。
 もっと下流の江戸川、江東、葛飾、墨田、足立の江東5区でも大規模に浸水する可能性がある。浸水想定区域に住むのは250万人。自治体の避難所の収容人数は20万人分しかない。避難所は足りない。このため約90万人はマンションの高層階などで生活を続ける必要があり、約140万人は自治体の外への広域避難が必要になる。江戸川区は全戸に配布したハザードマップで「ここにいてはダメです」と区外避難を呼びかけている。
 このところ都内での大規模な水害はない。しかし明治時代の1910年8月には「東京大水害」といわれる大惨事が起きた。東日本の1府15県を襲った大水害になった。関東の死者約850人、当時の東京府だけでも150万人が被災した。
 大水害は梅雨前線と2つの台風が重なった豪雨て起きた。利根川や荒川などが氾濫し、関東平野一面が水浸しになった。東京でも下町一帯が長い間冠水した。津波とちがって、川の氾濫は水が引くのが遅い。
 この水害をきっかけに荒川放水路が作られた。全長22キロ、幅500メートルの放水路だ。1923年の関東大震災での大被害や第一次世界大戦の影響で遅れに遅れ、1930年にようやく完成した。
 また、戦後は「地下宮殿」とも呼ばれる地下の巨大な遊水池が作られて水害に備えている。
 しかし、これらの対策でも十分ではないことが今回の調査で露呈した。
 東京都区部の平地の多くの部分は、元々は海の干潟や低湿地帯だった。江戸時代以降の埋め立てや治水事業によって陸地が拡がって、多くの人が住み着いた。それゆえ海抜も低い。
 東京は本質的に水害に対して弱いことを忘れてはいけないだろう。
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