[2020_11_29_04]朝鮮日報と経済紙はなぜ「脱原発」を嫌うのか(ハンギョレ新聞2020年11月29日)
 
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朝鮮日報と経済紙はなぜ「脱原発」を嫌うのか

 大統領直属の諮問機関「国家気候環境会議(パン・ギムン委員長)」は23日、政府に対し、粒子状物質(PM2.5など)と気候変動への対応のための中長期政策を提案した。石炭発電やガソリン・軽油車両の退出時期など、粒子状物質と炭素排出を減らすための主要政策が含まれている。ハンギョレや京郷新聞などの複数のメディアは、「2035年からの内燃車国内販売中止を提案」などの見出しで政策発表を報じた。
 この政策について、一部の保守メディアや経済紙は、異なる内容を主に報じた。朝鮮日報(「大統領直属気候会議『脱原発固定不変ではカーボンニュートラルは難しい』」)、韓国経済(「大統領諮問機関『原発政策固定不変では2050年カーボンニュートラルは難しい』」)、ソウル経済(「大統領直属委『脱炭素、原発も代案』」)が代表的だ。政府内部の「脱原発への反対行動」に重きを置いたのだ。
 政府の推進する政策が適切かを検討・監視することは報道機関の主な機能だ。同じ政策についても、各社ごとに見方が異なりうる。朝鮮日報、韓国経済、ソウル経済は政府と環境団体の脱原発基調に終始一貫して否定的な態度を示してきた。だが、国家気候環境会議は、これらの報道が出た24日午前、「記事が事実と違う」という反論資料を出した。
 国家気候環境会議が政策提案の発表前に記者団に配布した報道資料には、石炭発電の退出を扱った部分に原子力への言及がある。
 粒子状物質や温室効果ガスの主な排出源である石炭発電(2019年は全発電量の40.4%)を、2045年またはそれよりも前にゼロにしつつ、2050年のカーボンニュートラル(炭素中立)を実現するため、2040年よりも前に繰り上げることも検討する。
 また、再生可能エネルギーを中心とし、原子力と天然ガスを補完的に用いる最適の国家電源ミックスを構成する。
 政策提案の発表後に行われた記者懇談会では、「再生可能エネルギーを中心としつつも、原子力と天然ガスを補完的に用いる」という提案をめぐり、「(すべての原発が寿命を迎える)2079年以降も原発が必要だということではないか」という取材陣の質問が出た。国家気候環境会議のアン・ビョンオク運営委員長が答えた。
 「(石炭発電は)天然ガス、原子力、再生エネルギーから選んで代替するしかないが、それぞれの時期ごとに各エネルギー源の発電単価、社会的受容度など、いろいろなことを検討すべきだ」
 本紙が当時の発言内容全体を確認した結果、朝鮮日報などが見出しに使用した発言をアン運営委員長が行ったのは、この発言の後だった。
 「原発問題を、今の政府の政策はあるものの、固定不変のものとして2050年の炭素中立を語るのは難しいと思う」
 この発言について朝鮮日報は「大統領の直属機関が政府の既存の『脱原発政策』とは違う見方を示したのではないかという解釈が出ている」「このため、国家気候環境会議が原発利用の必要性を提案したのではないかという話が出ている」と記している。韓国経済はより直接的に「大統領直属の諮問機関が事実上、原発政策を再論議すべきとの意見を出した」と書いている。
 これらの記事は、アン委員長が「政策が固定不変であれば炭素中立は難しい」と述べた直後に行った次の発言は縮めて書くか、あるいはまったく書いていない。
 「原発がその時代にも存在するという仮定の下では、原発も代案の一つとして検討できるわけだが、ただ我々が、石炭発電を代替するのはすなわち原発だというのは早計だと思う。グリーン水素、再生エネルギー、石炭発電所に装着する炭素捕集貯蔵技術がどのように発展するかによって、我々が選択しうる代案は様々なので、そうした部分を念頭に置いて議論すべき」
 朝鮮日報などは、全体で構成された発言のうち、「好み」に合う前半部分だけを切り取って大きく書き、残りの発言は縮小したり一切使わなかったりする「古典的なやり方」を使ったわけだ。
 アン委員長は本紙の電話取材に対して「政府の脱原発政策が維持されたとしても、2038年時点でも14基の原発が稼働中だ。これを前提として原発も使用できるという趣旨の発言だった。『原発政策が固定不変のものなら、2050年の炭素中立は難しい』と述べはしたものの、全体の脈絡としてはそうした趣旨ではなかった」と述べた。他の報道機関が報道した当日の質疑応答には、このような脈絡がよく表れている。
 2019年現在の韓国の発電量に占める各エネルギー源の割合は、石炭が40%、原子力が25%、液化天然ガスが25%、再生エネルギーが6.5%ほどだ。石炭発電を減らして再生可能エネルギーを増やす際には、賛否をめぐる対立の激しい原発はどうすべきかが常に問われることになる。保守メディアと経済紙は原子力が代案になり得るとの主張を、進歩メディアは原発は代案にならないとの主張をし、対立してきた。
 保守メディアや経済紙などが原発の肯定的な面を主に報道する背景には、経済的な利害関係があるという批判が何度もなされている。2017年に公開された韓国水力原子力の広告費執行内訳(1〜7月)によると、最も多くの広告費が執行されているのは朝鮮日報、中央日報、東亜日報、およびその系列会社だ。
 ただし、国家気候環境会議は原発反対の声を上げる市民社会だけでなく、産業界の声も集約して代案を検討してきたことから、アン運営委員長の発言は脱原発政策に否定的なメディアに口実を与えるものだったとの批判も出ている。脱核法律家の会「ひまわり」のキム・ヨンヒ共同代表は「原発の寿命を前提とした発言だというが、原発が将来の電力問題の代案となり得るというような発言をしたのは過ちだ」と述べた。
チェ・ウリ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
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