[2020_10_23_01]今後40年続く電気代値上げ、こっそり開始―原発事故の尻拭いを消費者・自然エネ事業者に(志葉玲2020年10月23日)
 
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今後40年続く電気代値上げ、こっそり開始―原発事故の尻拭いを消費者・自然エネ事業者に

 今年10月から、今後40年続く電気代値上げがこっそりと始まったことを、皆さんはご存知だろうか?その原因は、主に2011年3月の東京電力の福島第一原発事故だが、今回、負担増となるのは、原発事故とは関係ない新電力事業者及び消費者だ。新電力には、太陽光や風力など、CO2や放射性廃棄物を出さない、再生可能エネルギーに力を入れている事業者が多数あるのだが、これらの事業者が発電した電気を供給する際に、既存の電力網を使用する。その「使用料」は、託送料金と呼ばれるが、これに原発事故による賠償や廃炉費用の一部を上乗せすることを、経済産業省が省令で決めてしまったのである。だが、これは本来、原発事故を起こした東京電力及び、その他の原発事業者が負担すべきものだ。また、原発産業にお金を使いたくないという消費者の選択の自由を奪うものでもある。

○2.4兆円+4740億円を消費者に肩代わり
 2.4兆円。託送料金として、新電力や消費者が新たに支払うこととなる、原発事故への賠償負担金だ。これは、福島第一原発事故以前に、東京電力ほか原発事業者が確保しておくべきであった賠償への備えの不足分。さらに、経産省は「円滑な(原発の)廃炉を促す環境を整備する」として、4740億円を消費者負担として宅送料金に上乗せした。だが、託送料金への賠償負担金や廃炉円滑化負担金の上乗せについては、環境団体から批判の声が上がっている。
 脱原発と自然エネルギーを中心とした持続可能なエネルギー政策を実現させることを決意した団体・個人の集まりである「eシフト」は、以下のような問題点を指摘している。

・原発事故に対する東電の経営陣や株主等の責任が問われていないこと
・そもそも原発依存のエネルギー政策を見直すべきであること
・今後の大事故も同様に国民負担にすることができてしまうこと
・原発による電気は避け、太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる電力を選べる等の電力自由化の趣旨に反すること
・国会での議論もないで有識者会議と省令で決められたこと

「eシフト」の構成団体の一つ、環境NGO「FoE Japan」の吉田明子さんは「賠償負担金は1キロワット時あたり0.03〜0.12円、廃炉円滑化負担金は0円〜0.05円*と、金額としては一見小さいのですが、40年間にもわたって続くもの。大手電力会社が責任を負うべき負担が、広く薄く長く全消費者に転嫁されることの問題は深いです」と語る。そもそも、原発関連の負担金が電気料金に上乗せされていること自体、消費者の多くは知らされていない。「今後は新電力各社にも、電気料金明細での説明を求めていきたいと思います」(同)。
*それぞれ地域によって異なる。

○原発関連負担金は不当、訴訟も
 託送料金のあり方をめぐって、訴訟も起こされた。再生可能エネルギーによる発電を行ってきた新電力事業者「一般社団法人グリーンコープでんき」は、今月15日、託送料金についての経産省の認可を取り消す訴訟の提訴を福岡地裁で行った。
 同法人の母体である「一般社団法人グリーンコープ共同体」の代表理事で、本件裁判の原告代表である熊野千恵美さんは、提訴後の会見で、「原発の電気は安いとしながら、なぜ原発の費用を託送料金に含めるんだろうか」「二つの負担金の託送料金の上乗せは、原発を擁護する策ではないだろうか」との、グリーンコープ組合員たちの問題意識が訴訟の背景にあると語った。また、経産省や託送料金を受け取る側である大手電力会社に、幾度も陳情や意見交換を行ってきたが、受け入れられなかったため、訴訟に踏み切ったとも語った。
 訴訟では、原告側は、新電力事業者に原発関連の負担金を支払わせることは電気事業法には明記されておらず、同法を国会で審議し法改正するのではなく、同法の施行規則を省令で改正したことのみであること、また、省令による改正が電気事業法で定められている範囲から大きく超えることを指摘。これらが立法権は国会のみにあるとする憲法第41条に反する、したがって経産省の認可は無効だと主張していくのだという。

○公正さ問われる経産省
 経産省・資源エネルギー庁の担当部署に、グリーンコープでんきの訴訟についてきくと「訴状を確認中」だとのこと。同庁のウェブサイトには、電力小売全面自由化について、「ライフスタイルや価値観に合わせ、電気の売り手やサービスを自由に選べるようになった」と書かれているが、託送料金に原発関連の負担金を上乗せすることは、電力自由化における消費者の選択権を著しく損なうことにならないか。資源エネ庁に聞くと、消費者に選択の余地がないことは認めた。
 太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、温暖化対策のみならず、経済合理性でも優位になってきている。近年、技術やコスト改善が飛躍的な進歩を遂げ、最も安い電力となっているのだ。
 大手電力会社にとっては、原発は既得利権であるが、日本の人々にとっては、リスクであり、負担でもある。経産省の行政機関としての公正さが問われている。

(了)
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