[2020_10_09_08]関電“倍返し”金品受け取り問題発覚から1年 新旧経営陣いまだ対立〈週刊朝日〉(アエラ2020年10月9日)
 
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関電“倍返し”金品受け取り問題発覚から1年 新旧経営陣いまだ対立〈週刊朝日〉

 現金に米ドル、金貨に小判……。関西電力役員らが、原発のある福井県高浜町の元助役(故人)から多額の金品を受け取っていた問題の発覚から約1年。すでに新体制となった関電だが、新経営陣と旧経営陣が対立し、いまだにゴタゴタが続く。実力派の元相談役が“圧力電話”をかけるなど、法廷の外でもあつれきが表面化している。
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「拒絶の意思を示して、返却の努力もした。受領ではなく『預かり保管』していたに過ぎない」

 8月31日、大阪地裁に提出した答弁書でこう訴えたのは、関電の旧経営陣5人だ。歴代社長の森詳介・元相談役、八木誠・前会長、岩根茂樹・前社長ら。いずれも、元助役から金品を受け取るなどしていた面々だ。

「法令違反はおろか、倫理規範としてのコンプライアンス違反もない」。岩根氏らはこれまでの記者会見でコンプライアンス違反を認めてきたものの、今回これを覆した格好だ。「元助役に原発の運営を妨害されるリスクを考え、関電の利益を最重要視した行動だ」と、自分たちの“正当性”を主張した。

 旧経営陣がこうした異例の動きをとったのには理由がある。3月に社長に就いた森本孝氏ら新経営陣が起こした訴訟について、その却下を求めるためだ。関電はいま、金品受け取り問題が落ち着くどころか、新旧経営陣による法廷闘争に発展し、全面対決の様相をみせている。

 関電が世間を騒がせ始めたのは、ちょうど1年ほど前のことだ。

 一部報道を受けて、当時社長だった岩根氏が緊急の記者会見を開いた。会長だった八木氏を含む役員ら20人が2018年までの7年間に、個人から私的に計3億2千万円分の金品を受け取っていた、と衝撃的な発表をしたのだ。まもなく、金品を渡していたのが高浜町の元助役の森山栄治氏(19年3月死去)であることが明らかになった。

 当初、個人情報だとして氏名を公表しない関電の姿勢が批判を浴びた。1着50万円のスーツ仕立券までも「儀礼の範囲」としていたことがわかり、関電トップらの世間とのズレを露呈してみせた。

「ある者は1年間で19回返却したが、29回も高額な金品が贈られたり渡されたりした」。別の会見で岩根氏がこう説明したように、森山氏による異常なまでの金品の“倍返し”も浮き彫りになった。
 関電は、第三者委員会(委員長=但木敬一・元検事総長)を設置。そして今年3月、第三者委が次のような報告書をまとめた。

<金品を受け取ったのは75人で、総額3億6千万円相当。関電が森山氏の関係企業に工事を事前に約束し、実際に発注していた。森山氏は見返りを目的に金品を配っており、原発工事などの代金が役員らに還流していた>

 但木委員長は旧経営陣の善管注意義務違反などの法的責任について明言を避け、問題は「区切り」を迎えたと思われた。

 だが、問題は事実解明では終わらなかった。

 関電の監査役会が取締役責任調査委員会(委員長=才口千晴・元最高裁判事)を立ち上げて、法的責任や損害を認定。関電はこれを受けて6月16日、八木氏や岩根氏ら元取締役5人に対し、計19億3600万円の損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。冒頭の旧経営陣による答弁書提出は、まさにこの“対抗措置”だった。

 法廷外での神経戦も続いている。

 旧経営陣5人の1人で、社長や会長を歴任し、社内に強い影響力を持つとされる元相談役の森氏が7月13日、社外取締役の友野宏氏に一本の電話を入れた。

「(関電の訴訟代理人2人について)弁護士会に懲戒を申し立てることを予定しており、そうなれば世間を騒がせることになる。現段階で交代させるほうがよい」

 関電が大阪地裁に提出した書面によれば、こう告げたとされている。

 6月に関電の社外取締役となった友野氏は、訴訟対応を担う監査委員長に就いたばかりだった。友野氏は新日鉄住金(現日本製鉄)の社長などを歴任。11〜13年には、関西財界の中心となる「関西経済連合会」で会長の森氏を副会長として支えた。そもそも森氏と友野氏は同じ京都大学工学部の先輩・後輩でもある間柄だ。

 森氏側は、関電の代理人2人が法的責任や損害を認定した取締役責任調査委員会の委員だったことを問題視。「利害関係のない社外の弁護士であると信頼して、不利な事実であろうが包み隠すことなく事情を説明した」「中立・公正ないわば『裁判官』としてヒアリングに応じた人物が、実は『検察官』であった事態を到底容認できない」と訴えていた。

 森氏が友野氏へ“直電”したのはそんな最中のことだ。関電側はこれに対し「弁護士を降ろすよう圧力をかけてくることはきわめて異常で甚だ遺憾だ」と批判。これに対し森氏側は、友野氏に弁護士の解任を求めた事実はなく、事前の情報提供の意図だったと反論している。
 新旧経営陣の対立は、いまだに森氏の存在が強いことが影響している。もちろん、森氏については関電内で「面倒見がよく、部下に対する思いやりにもたけている」(社員)と評価する人も多い。一方で、金品受け取り問題だけでなく、東日本大震災後にカットした役員報酬をこっそり補填した問題が表面化し、「長年続いた森体制からの脱却が急務」(幹部)との声が高まっている。当時会長だった森氏が、補填を決めたとされたからだ。

 追い打ちをかけたのが、8月に関電のコンプライアンス委員会(委員長=中村直人弁護士)が役員報酬の補填問題を調査した報告書だ。森氏が補填を主導したと認定し、その対象者に「口止め」していた事実も明らかにした。

 報告書によると、関電は12年3月〜19年6月、全役員が経営悪化の責任をとって報酬を最大7割減額。だが15年10月ごろ、森氏と当時社長の八木氏が取締役会に諮らずにカット分の補填(ほてん)を決め、16年7月〜19年10月に元役員18人に計2億5900万円を支払っていたという。

 関電は当時、震災後の原発停止で電気料金を2度も値上げし、社員のボーナス全額と基本給の一部を削り、株主には無配としていた。中村委員長は「世の中を裏切ることを平気でしてしまう」と述べ、森氏らを厳しく非難した。

 さらに、役員報酬の補填で窮地に立たされているのが、某元役員だ。6月まで監査役を務め、森氏に近く、秘書室担当常務から副社長に引き上げられた人物だ。

 金品受け取り問題では、18年10月に把握しながら、取締役会などへの報告を怠ったとされる。問題が表沙汰になった後、日本監査役協会の全国会議で企業不祥事防止に関するパネリストとして登壇。「思い切ってやって参りました」と語り、参加者からは「ブラックジョークか」との声も聞かれた。

 その元役員だが、今年6月の責任調査委員会の報告を受け、“恩義”のある森氏らの提訴に向けた議論を主導することになった。同月の株主総会で退任したものの、お役ご免とはいかなかった。

 コンプライアンス委員会が8月にまとめた補填問題の報告書では、秘書室担当常務だったこの元役員も森氏や八木氏とともに補填の方針を決めるべく、稟議(りんぎ)書を決裁している事実が発覚。「善管注意義務違反が認められる」と指摘を受けた。
 関電はこの元役員の提訴を検討していくというが、一筋縄ではいかない。元役員は旧経営陣5人の提訴を主導したため、この5人につく弁護士グループには引き受けてもらえないというのだ。ある元幹部は「単独で弁護士を立てて闘うことになるのではないか。非常にまじめで、仕事もできる人間だっただけに気の毒なところもある」と同情する。

 関電は、旧経営陣に対する訴訟だけでなく、半年に及んだ第三者委の調査が不十分だったことにも対応を迫られている。

 関電は7月、子会社「KANSOテクノス」(大阪市)の元社長ら2人が森山氏から商品券約400万円や現金4万円を受け取っていたことを明らかにした。今井武・元社長が社長だった03〜12年、商品券約400万円を受け取っていたというものだ。

 返却などは済んでいたとするが、テクノス社の役員らは事実を知りながら、第三者委の調査に報告しなかったことになる。「過去のことを言うべきだとは思わなかった」(同社役員)などと釈明しても、今年6月の内部通報があるまで頬かむりを決めこんでいた。

 関電は、調査が不十分だった子会社6社に対して、8月中旬をめどに再調査する方針を示したものの、いまだ公表には至っていない。

 関電は年末に向けて、原発関連で大きな課題をいくつも抱えている。

 関電が金品受け取り問題の発覚前、「最大の経営課題」と位置づけてきた一つが、使用済み核燃料を受け入れる中間貯蔵施設の候補地選定だ。年内をめどに原発のある福井県外でさがすことを約束してきたが、難しい状況に陥っている。一連の不祥事で信頼が地に落ち、受け入れる自治体が現れにくいためだ。

 さらに、関電は運転40年超の「老朽原発」3基の安全対策工事を順次終え、再稼働させたい意向だが、地元の同意を得られる見通しが立たない。

 なによりも、再稼働できるかどうかのキーマンである福井県の杉本達治知事が、子会社での金品受け取り問題の発覚について「当然、信頼関係は傷つくわけで、地元としては大変遺憾だ」とコメント。老朽原発の再稼働についても「住民の信頼を得るという前提でなければ物事は進まない」と釘を刺す。

 原発の比率が他電力よりも高い関電にとっては、“1丁目1番地”である電気事業そのものが正念場を迎えている。再生に向けた取り組みは待ったなしだ。



 関電は子会社6社に対する再調査結果を10月6日に公表。KANSOテクノスの2人とともに、関電プラント(旧・関電興業)の元役員ら7人が、福井県高浜町の元助役(故人)から商品券や重箱、金杯など計300万円以上の金品を受け取っていたと発表した。一連の金品受領の対象は関電元役員ら計83人、総額約3億7千万円相当となった。

 調査は7月31日〜10月2日、6社の元役員ら約240人から電話で聞き取りをするなどした。関電プラントでは、元助役側との金品授受を記録したメモが残っていたという。

※週刊朝日  2020年10月16日号に加筆
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