[2020_09_28_08]原発輸出戦略 「看板」を書き換えねば(東京新聞2020年9月28日)
 
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原発輸出戦略 「看板」を書き換えねば

 日立製作所が、英国での原発新設計画から完全撤退することを決めた。原発輸出は政府の成長戦略の柱の一つ。だがもはや、原発に資金は集まらない。世はまさに再生可能エネルギーの時代である。
 日立製作所は、英国西部のアングルシー島に、二〇二〇年代前半の運転開始をめざし、百三十万キロワット級の大型原発二基を建設する計画を立てていた。
 ところが、福島第一原発事故後に必要性が増した安全対策費の急騰により、資金難に陥った。
 総事業費三兆円のうち英政府が二兆円の融資を提示、日立などの出資分には事実上、日本政府が債務保証を付けるという枠組みをつくり、つまりは日英両政府が後ろ盾になるという形で一時は事業の延命を試みた。
 しかし日立は昨年一月、「民間企業としての経済合理性から判断した」として、計画の「凍結」を表明。ただ成長戦略の目玉の一つとして「インフラ輸出」を掲げる安倍政権の意向を背景に「撤退」は先送りにされていた。
 ところがその後、環境や社会の課題解決への配慮を重視するESG投資の世界的な進展もあり、エネルギー事業への投資環境も急速に変化した。
 北海油田の枯渇を憂慮していた英国でも再生エネルギーが急速に普及し、原発の必要性が薄れたこともあり「撤退」に踏み切った。
 新型コロナウイルスの感染拡大による経済の落ち込みによって出資を集めることが難しくなったという見方もあるが、英国での原発建設事業は、とうに「死に体」だったのだ。
 福島の現状を見れば、原発に未来がないのは一目瞭然だが、国策への配慮が撤退時期を遅らせたのではなかったか。
 東芝は既に一八年に、海外での原発事業から手を引いた。三菱重工業もトルコでの建設計画を断念する方向といい、日本の原発輸出は“総崩れ”の状態だ。
 国際エネルギー機関(IEA)の統計によると、日本の再エネによる発電量は、コロナ禍の中でも増えている。脱原発、脱炭素に向かう内外の資金の流れは今後ますます加速するだろう。
 日本は風、太陽、地熱など再エネ資源の豊かな国で、技術的にも高い潜在力を秘めている。菅新政権は、インフラ輸出戦略の看板から速やかに「原発」を削除して、「再生可能エネルギー」に書き換えるべきなのだ。
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