[2020_09_20_04]東日本大震災10年へ 汚染処理水処分 崩れたシナリオ 「今夏に方法決定」ー>想定外の首相交代 アルプス 問われる性能 焦る政府・東電 有識者委は海洋放出「優位」案 放出基準満たす水27%(毎日新聞2020年9月20日)
 
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 東京電力福島第1原発のタンクにたまり続けている汚染処理水について、政府が処分方法を決めあぐねている。有識者による政府の小委員会ほ2月、海洋放出の優位性を強調する報告書をまとめた。政府が結論を出そうとしている大詰めの段階で、想定外の首相交代となった。発足直後の新政権は重大な決断を迫られている。
 福島第1原発の敷地内。倉庫のような建物3カ所に、計7基の多核種除去設備(ALPS、アルプス)が設置されている。アルプスにはトリチウム以外の62種類の放射性物質の濃度を下げる機能がある。排水処理で実績のある米国の原子力関連企業の技術を活用した東芝製と日立製だ。記者は9月上旬、アルプスがある建物に入った。
 敷地内の96%は「グリーンゾーン」と呼ばれ、長袖の作業着姿で行き来できる。全面マスクは不要だ。残りの4%は「イエローゾーン」か「レッドゾーン」で、大気中の放射線量が今も高かったり、放射性物質が含まれる物を取り扱ったりしている所だ。この建物はイエローゾ−ンにある。
 記者は私服の上に保冷剤をつけたベストと、頭と全身を包むつなぎ服を着て、全面マスクとヘルメット、軍手の上に二重のゴム手袋を装着した。中に足を踏み入れると「ゴ−ッ」というアルプスの稼働音が耳をついた。薄明かりの中を見渡すと、タンクや配管がいくつも並び、脇には鉄骨の足場が張り巡らされていた。
 配管の横には建物内の線量を測る計器も設置されていた。表示される値は刻々と変わり、毎時3マイクロシーベルトだつた。一年中いたら被ばく線量は26ミリシーベルトになる計算だ。国際放射線防護委員会は、一般人の年間被ばく線量限度を1ミリシーベルトとしている。
 案内する東電社員について中に進むと、直径1.5メートル、高さ3メートルほどの円筒状のタンクが見えた。内部には活性炭など特殊なフィルターとなる「吸着材」があり、汚染水内の放射性物質をこし取る。「中学の理科で習う『ろ紙』と基本的に仕組みは同じです」。福島第1原発の機械部処理役備グループの宮川雅彦マネジャーが、声を張り上げて説明してくれた。
 その原理で62種類の放射性物質の濃度を下げようとしているが、トリチウムだけは水素と化学的な性質がほぼ同じで水分子と一体になるため、技術的に取り除くのが難しい。視察コミュニケーショングループの植田雅之マネジャーは「水道水と天然水が混ざったものから天然水だけ取り除けないでしょ? それと同じ話です」と解説した。
 アルプスで処理した汚染処理水を見せてもらった。茶色の汚染水が無色透明になっており、水道水とは見分けがつかない。縁量計を当てると毎時0.26マイクロシーベルトの目盛りを指した。その場所の大気中の線量と変わらないのを確認した。
 処分に向け、東電は改めてアルプスの性能を確認する試験を9月15日に始めた。トリチウム以外の放射性物質の濃度が放出基準の3791倍になっている1000トンと、153倍のl000トンを10月中旬までアルプスに通し、年内にも途中経過をまとめる。
 一方、最近になって、アルプスで濃度を下げる対象にしていた62種類に含まれていない放射性物質「炭素14」が、想定より多く汚染処理水に含まれていることが明らかになった。今回の性能確認試験では、炭素14を含めて放出基準を下回るくらい放射性物質をこし取れるかが問われている。【荒木涼子、塚本恒】
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