[2020_07_15_04]「本当にあるのか」塩田氏の公約、川内原発の“県民投票” 気をもむ住民(西日本新聞2020年7月15日)
 
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「本当にあるのか」塩田氏の公約、川内原発の“県民投票” 気をもむ住民

 鹿児島県知事選から一夜明けた13日朝。九州電力川内原発(薩摩川内市)の作業員たちが市内の民宿で朝食をかき込んでいた。
 1、2号機はテロ対策の施設建設のため、3月から順次停止し、年明けまで定期検査や工事が続く。千人規模の作業員が市内に滞在し、コロナ禍でも宿泊施設は活況を呈す。
 ただ、民宿経営の男性の心は晴れない。「県民投票を視野に入れる」。知事選で初当選した無所属新人で元九州経済産業局長の塩田康一氏(54)が、川内原発の運転延長の是非を巡り、こう公言しているためだ。
 同原発は2024年以降、40年の運転期限を迎える。原子力規制委員会が認めれば最長20年延長でき、安全対策に巨費を投じる九電の延長申請は確実視される。九電と県、同市の「安全協定」に延長に関する規定はないが「一般論として地元の理解は欠かせない」(資源エネルギー庁)。
 塩田氏は、県の専門委員会のメンバーを見直し、原子力政策に批判的な学識経験者を加えて、延長に関する科学的、技術的な検証を徹底的に行う考え。「県民に直接信を問うた方が良いというような局面があれば検討したい」
 民宿経営の男性は「本当に投票はあるのか」と気をもむ。原発と「共存共栄」の薩摩川内市。立地に伴う固定資産税など関連収入は年約90億円。育児支援やインフラ整備は充実し、原発交付金を活用したコンベンション施設の建設が進む。延長の行方は地域の盛衰に直結する。
 原発を巡っては、知事選で敗れた現職の三反園訓(みたぞのさとし)氏(62)=自民、公明推薦=は4年前、脱原発を掲げ、野党の支援を受け初当選。就任当初、九電に一時停止を求める強い姿勢を示したが、脱原発はトーンダウンし、稼働容認に転じた。県政トップの“変節”は、反発や批判、混乱を招いた。
 塩田氏の陣営関係者は、出馬表明後、半年かけて議論した末に、「県民投票」を公約に入れることになったと明かす。県民の声を聞く姿勢を示すためだったという。二分するテーマの県民投票は「分断を招く」との懸念があり、県と自治体の関係に影響を与える可能性もある。
 「事故があれば被害は市内だけでは済まない。実のある議論を」。運転延長や県民投票が注目されることに女性会社員(68)はこう期待する。一方、県内の商工団体幹部は「最後は現実路線に落ち着く」。原発を推進してきた経済産業省出身の塩田氏の経歴を踏まえ、紆余(うよ)曲折があっても延長を容認すると踏む。自民党幹部は「県民投票をするとは(はっきり)言っていない。対立するはずがない」とけん制する。
 国策にどう向き合うか、新知事の政治姿勢を県民が注視している。
(大坪拓也、上野和重)
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