[2020_05_20_04]曲折の6年 再処理「合格」 (6)地元は 工事増で活性化期待 安全性の懸念消えず(東奥日報2020年5月20日)
 
 「何度も肩すかしを食らった。待ってましたーという思い」。六ヶ所村でホテルを経営する「ホテル市原クラブ」(本社・千葉県市原市)の山本勇一常務は、日本原燃・六ケ所再処理工場が安全審査をクリアしたことを受け、歓迎の言葉を口にした。
 ここ数年、村内では原燃関連の工事が増え、村外から来る作業員も急増。宿泊業者らは客室の増設や改装を急ぎ、新しく開業したホテルもある。それだけでは需要をまかないきれず、宿泊者は近隣の三沢市や野辺地町に流れる。独自に社員寮を構える大手企業も少なくない。
 同社も3年前、村内に2カ所目となるホテルをオープンしたばかり。利用客の大半は作業員といい、山本常務は、審査合格が「新しい人の流れが生まれて経済を潤す一因になるはず」と期待感をにじませる。
 飲食店で働く男性は「作業員が増えるのはいいことしかない。新型コロナウイルスの影響で経済に元気がないだけに、夜の街が活気づけば」と声を弾ませた。
 再処理工場では今後、緊急時対策所といった大型施設をはじめ、耐震補強など膨大な安全工事が本格化する。原燃は既に準備工事を進めているが、工事以外の・仕事も多く、村内の人手不足は顕著になっている。
 一方、この活況は「あと数年で終わる」との見立ては村内に多い。ある宿泊業者は「操業が始まったら作業員は大幅に減るだろう。経営に少なからず打撃があるのでは」との不安をロにする。中には「工事が続くので、工場が稼働しない方が地元にお金が落ちる」と本音を漏らす人もいる。
 工事完了後も巨大な工場の保守管理やメンテナンスには継続して人手が必要となる。ここに目を付け、メンテナンス業への参入を目指す動きが村内で活発になっている。
 大手メーカーが担ってきた業務の一部を地元に発注してほしい−。村商工会の種市治雄会長は原燃サイドにこう打診しているという。「地元企業は長年、メーカーや大手工事会社の下で仕事をしてきた実績があり、技量は上がっている。出張費などがかかる大手と比べ人件費も抑えられる」。安全工事費だけで約7千億円を投じる原燃にとってもコスト削減は課題。種市会長はこれが「ウインウインの提案となるはず」とよむ。
 県、村が事業者と核燃料サイクル施設の立地に協力するとの協定を結んで35年。今や原燃は3千人近くの社員を抱える企業に成長した。かつて「出稼ぎの村」と呼ばれた六ヶ所は、周辺地域からも働き手を集める「雇用の村」になった。種市会長は「自分も仕事があるから村に戻ってくることができた。定住する若者が増え、原燃が村の活性化に寄与したことは間違いない」と力を込める。
 再処理工場は、稼働に向けまた一歩近づいた。3年にわたり村で反対活動を行ってきた「花とハーブの里」の菊川慶子代表は、稼働により放射性物質が海洋・大気に放出されることを不安視する。「審査に合格したからといって、安全性が向上するとは言えない」
 福島第1原発事故を機に原発などの問題を考え始る人が村内に増えた−と、菊川さんは活動を続けてきたことへの手応えを感じている。「行き先がないプルトニウムをこれ以上、増やしてどうするのか。核燃料サイクル政策をかたくなに進めようとする政府に怒りを覚える。今、原子力政策に終止符を打つときでは」
    (藤林全晴、加藤景子)
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