[2020_05_16_01]曲折の6年 再処理「合格」 (3)長期化 互いに「試行錯誤」 序盤で議論立ち往生(東奥日報2020年5月16日)
 
 日本原燃が当初、六ヶ所再処理工場の安全審査に見込んでいた期間は「半年間」。この青写真は審査開始とともに、もろくも崩れ去った。
 福島第1原発事故を教訓に新たに策定された規制基準は、従来の規制と比べ、内容が一気に厳格化した。
 新基準の趣旨を十分に理解しないまま審査会合で安全対策を説明した原燃は、原子力規制委員会の審査チームからいきなり洗礼を浴びた。「説明不足」「納得できない」。双方の議論はかみあわず、序盤で立ち往生した。
 原子力規制庁の指摘を受けてすぐ対応を修正するなど「正解」を探り当てるような姿勢に、規制庁職員が「社内で十分な議論が終わっていないのに会合のコメントを受けながら資料を作っていくやり方には懸念がある」と苦言を呈したこともあった。回を重ね、認識のずれは少しずつ埋まっていくように見えたが、その後も原燃が厳しい指摘を受ける場面は繰り返された。
 開かれた審査会合は113回、現地調査は5回に上った。審査は6年4カ月と長期化したが、その要因は事業者サイドだけにあったわけではなかった。
 「先頭バッターであり、かっ唯一のバッター」と規制委の更田豊志委員長が表現したように、六ヶ所再処理工場は、商業用としては国内唯一の施設。事業者、規制サイド双方にとっても、原発は既に何基もの審査が進展し、海外の事例も豊富にある一方、再処理で参考にできる先例は乏しかった。
 規制庁の長谷川清光・安全規制管理官(核燃料施設審査担当)は「相場観がない中、最初は互いに試行錯誤があった」と認める。
 審査会合での議論を終え、合格を視界に捉えた2018年冬以降、規制要は2度の審査再開に踏み切った。19年3月には審査書案の草案ができていながら原燃に新たな論点を提示。合格が近づくにつれ、規制委の慎重姿勢は際立った。
 審査チームには途中で原発審査に当たっていた担当者も加わった。安全に関する知見が深まっていた原発の視点から、あらためて安全性がチェックされたことで、再処理工場に対する規制の要求レベルがぐんと上がった部分もあった。
 行きつ戻りつする議論に「振り回されている気がする」と原燃幹部のぼやきも聞かれた。
 規制委が原燃の安全対策を認め、事実上の合格証である「審査書案」を了承した5月13日。要田委員長は会島で、審査の6年余を振り返り「審査をする側、受ける側、双方に共通理解をひとつひとつ、つくっていくのに時間がかかった。その積み重ねが、これだけの長期間になったと考えている」と語った。、新基準の策定に関わり、県原子力政策懇話会委員も務める名古屋大学大学院の山本章夫教授(原子力安全専門)は、、6年余という期間に「再処理施設は工程が複雑な上、対象機器も多い。適合性をゼロから議論したので、双方に難しい部分があったと思う」と一定の理解を示す。
 施行前に比べて工場の安全性は十分に向上するだろうーとしつつ、山本教授は「工場が設計されたのは今から30年前。当時の安全設計の思想が、今の人にもきちんと引き継がれているだろうか。事象の発生時、最後は人が『とりで』になる。人材育成を怠らないでほしい」と強調した。
     (加藤景子)
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