[2020_04_22_01]日本・千島海溝地震想定 33自治体 庁舎浸水 津波対策 急務に(毎日新聞2020年4月22日)
 日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震について、内閣府が発表した津波想定。各地で自治体庁舎が浸水することが明らかになった。その数は少なくとも北海道、青森、宮城、茨城の4道県で33に上る。庁舎の浸水は、災害対応の妨げになりかねない。東日本大震災の被災地も再び津波に襲われることが判明し、防災対策の練り直しを迫られている。

 庁舎の浸水が24市町と最も多いのが北海道だ。千島海溝地震では、厚岸町(最大浸水深8・1メートル)をはじめ7市町。日本海溝地震では、様似町(同10・6メートル)や室蘭市(同4・5メートル)、函館市(同4・3メートル)など19市町に上る。襟裳岬周辺では両地震の被害が重なる庁舎もある。北海道以外は、青森県5▽宮城県3▽茨城県1。宮城県では、いずれ,も東日本大震災で浸水した石巻市、塩釜市、松島町の庁舎が再び水につかる。
 こうした中、既に対策を.講じている自治体もある。千島海溝地震で最大5.9メートル浸水する釧路市。東日本大震災を受けて2015年、1700人が避難できる防災庁舎(高さ約25メートル)を庁舎隣に健設した。最上層の5階に防災危機管理課や非常用電源を移し、最低限の機能が維持できるようにしている。
 一方、千島海溝地震で最大5・3メートル浸水するえりも町は、電源が庁舎1階に集中しているが、担当者は「上層階への移設は財政上不可能」と語る。車で5分ほどの高台にある高校が災害対策本部となるものの、備品の移転・設置が検討課題だ。
 浸水想定域が非公表となった岩手県でも浸水する庁舎がある。宮古市によると、内閣府から示された資料では最大3・6メートル浸水する。旧庁舎が東日本大震災の津波で被災したため、約1キロ内陸に移して18年に建てたばかりの新庁舎だ。釜石市も6.6メートル浸水するとの想定だ。市は22年度、数百メートル内陸に新しい庁舎を建設するが、この新庁舎も浸水する恐れがある。
 こうした浸水想定域が公表されなかった理由には、地元首長の反発がある。岩手県によると、内閣府から今回の想定について事前に連絡があり。沿岸12市町村に意見を求めたところ、一部が4月の公表に反対したという。
 内閣府の想定は津波より低い防潮堤は壊れる「最悪の事態」でシミュレーションしたものだが、宮古市の山本正徳市長は取材に「防潮堤をないものとする前提は乱暴。復興のまちづくりを全否定された」と述べ、公表の再検討を求めたと明かした。釜石市の野田武則市長も「住民にとって驚きのデータを、新型コロナウイルスで十分な説明ができない時期に出すのか」と公表延期を求めたという。
 一方で野田市長は「新庁舎の用地をかさ上げするなど、設計を見直すことも必要になるかもしれない」と話した。
 県は「早く公表すべきだ、とは思っでいる。沿岸市町村と相談し公表時期を検討する。県でも新たにシミュレーションをする」としている。
 【本間浩昭、平山公崇、中尾卓英、安藤いく子】
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