[2020_03_05_01]<東海第二への教訓>(上)再稼働なら首長「同意責任」 福島県・前双葉町長 井戸川克隆さんに聞く(東京新聞2020年3月5日)
 
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<東海第二への教訓>(上)再稼働なら首長「同意責任」 福島県・前双葉町長 井戸川克隆さんに聞く

 東京電力福島第一原発事故からまもなく九年。惨事を引き起こした東日本大震災の津波は、茨城県東海村の日本原子力発電(原電)東海第二原発も襲った。その東海第二は一年前、原電が再稼働させる方針を示し、工事が着々と進められている。3・11を前に、福島の原発事故を経験した元首長ら三人に聞き、再稼働について考えた。
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 東京電力福島第一原発事故で全町避難が続いていた双葉町で四日、帰還困難区域の避難指示が一部解除された。放射線量はまだ非常に高く、生活の基盤もできていない。原発事故の被害を矮小(わいしょう)化したい政府が、世論を誘導していると言わざるを得ない。
 私は事故直後、町長として、役場機能ごと県外に集団避難することを決断した。今も避難先の埼玉県加須市で暮らしている。
 福島の教訓から、原発事故に備えた避難計画の策定が求められる自治体の範囲は原発の三十キロ圏に拡大された。東海第二は十四市町村が対象で、三市が策定済みという。だが「そんな計画はさっさと壊しなさい」と言いたい。
 事故が起きたら、避難計画なんて役に立たない。「とにかく逃げろ」だ。あの時は政府や福島県が「SPEEDI」(放射能拡散予測システム)の情報を隠し、(甲状腺被ばくを予防する)安定ヨウ素剤の配布指示を怠った。そのために避難が遅れ、住民の被ばくが拡大した。
 何とか避難しても、「避難生活計画」というものはない。避難に当たっては災害救助法が適用されるが、これは自然災害を原因とする一時的な避難を想定したもの。長期の避難を強いられる原発事故とは相いれない。
 マッチ箱のような仮設住宅でずっと、狭い、苦しい、寒い、暑い思いをしなければならない。コップに入れられたウナギと同じで、自己責任で仮設から出るよう仕向けられる。
 九年前は国内で初めて多くの住民が避難する原発事故だったから、避難先でも温かく見守ってもらえた。私たちの姿を見て原発反対の世論も盛り上がった。
 東海第二は違う。仮に自分たちの利益優先で再稼働を認め、事故が起きたら、住民は避難先で「おまえたちは来るな。責任取れ」と石をぶつけられかねない。
 再稼働に同意した首長は、その責任を問われるだろう。原子力災害対策特別措置法に基づき、首長には「住民の生命、身体及び財産を災害から保護する」責務がある。原発事故が起これば周辺に放射性物質をまき散らすことを容認し、加害行為を働いたことになる。被災者から損害賠償を求められるかもしれない。
 首長は住民の代表だ。ところが、ほとんどの原発立地市町村の首長たちはそのことを理解せず、国の奴隷、原子力ムラの一員になってしまっている。絶対にいけないと思う。 (聞き手・宮尾幹成)

<いどがわ・かつたか> 1946年、福島県双葉町出身。県立小高工業高卒。会社役員を経て、2005〜13年に双葉町長を務める。在任中の11年3月に起きた東京電力福島第一原発事故では、避難対象となった市町村で唯一、住民の県外避難を決断した。12、13年に国連人権理事会総会で福島の窮状を訴えた。
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