[2019_12_23_02]上関原発ボーリング調査中止について喜ぶ漁業権等の権利者(祝島漁民)は、本来、事業者(中国電力)よりも強い 今後の民衆運動に大きな希望と勇気を与えてくれた 祝島の「権利の主張」 熊本一規(明治学院大学名誉教授)(たんぽぽ舎2019年12月23日)
 
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上関原発ボーリング調査中止について喜ぶ漁業権等の権利者(祝島漁民)は、本来、事業者(中国電力)よりも強い 今後の民衆運動に大きな希望と勇気を与えてくれた 祝島の「権利の主張」 熊本一規(明治学院大学名誉教授)

 中国電力は、2019年11月8日から2020年1月30日に予定していた上関原発に関する海上ボーリング調査に全く手を付けられないまま、12月16日に来年1月30日までの工事の中止を発表しました。
 発表の背景にある法律論争及びその経緯について、長周新聞12月18日にコメントを載せましたので、以下に紹介します。

 なお、より詳しくは、私の ホームページ をご覧ください。

[以下、12月18日長周新聞記事]
 これまで、公共事業等を止めるには法律論争で事業者を論破しておいたうえで権利者が権利を行使することがポイント、と言ってきましたが、それが上関原発で見事なまでに実証されました。
 11月8日ボーリング調査開始以来、中電は、祝島漁民の釣り船を訪ね回って「ご協力をお願いします」と頭を下げて頼むしかありませんでした。そして、ことごとく拒まれて、すごすごと帰るしかありませんでした。
 事業者と漁民とのこのような力関係は、今までほとんどなかったことです(正確には2007年諌早湾における農水省導流堤工事以来2例目です)。
 その背景には、主として2つの法律論争がありました。

 1つは、11月11日山口県交渉で「占用許可が憲法違反にならないことを説明してください」との質問に山口県が沈黙するしかなかったことです。
 一般海域占用許可の申請には「利害関係人の同意」を得ておくことが必要ですが、中電は祝島漁民の同意を省いて申請したのです。
 他方で、憲法二九条に基づいて祝島漁民に損失補償が必要なことは認めているので、「損失補償の対象が、なぜ占用許可の利害関係人に含まれないのか、そんな違法な申請に占用許可を与えたのは憲法違反ではないか」と攻めたのでした。
 もう1つは、中電が祝島島民の会清水敏保代表に送ってきた「漁業補償に係わる回答書」(12月10日付)への反論・質問書(12月12日付)を12月16日着で中電に送付したことです。
 回答書では、広島高裁2007年判決に基づき、「2000年補償契約で今回のボーリング調査も含めた漁業補償をした。その代わりに自由漁業(釣り漁業)の権利も含め、漁業を営む権利は放棄された」旨の主張をしてきました。
 それに対して、反論・質問書では、主として、 
 1.漁業補償額は事業の前3〜5年間の漁業データを元に算定しなければならないとされているから、2019年ボーリング調査に伴う補償額を2000年に算定できたはずはない、 
 2.補償契約に基づき自由漁業の権利に制約を受けるのは、2000年当時、当該海域で自由漁業を営んでいた「2000年祝島組合員」であり、現在、当該海域で自由漁業を営んでいる祝島漁民のほとんどは「2000年祝島組合員」ではないので、補償契約による制約は全く受けない、と反論したのでした。
 この1.及び2.の論理は、今回のボーリング調査のみならず、今後の埋立についても全く同様にあてはまるので、中電は埋立も原発建設も不可能になったのです。
 今回明らかになったように、漁業権等の権利者は、本来、事業者よりも強いのです。頭を下げて頼まなければならないのは事業者であるにもかかわらず、事業者のほうが強いと思いこまされて「事業をやめてください」などと頭を下げて頼んだりするから、事業者に姿勢を見透かされ、結局は、文書に印を押したり、補償金の配分を受け取ったりして力関係が逆転してしまうのです。
 権利者が自分の持つ権利を主張し、行使することで事業が中止になったのは画期的なことで、今後の民衆運動に大きな希望と勇気を与えてくれるものです。
 40年近くにもわたって上関原発計画に苦しめられ続けてきた祝島島民に「おめでとう」とお伝えするとともに、民衆運動にとっての大きな成果を勝ち取られたことを共に喜びたいと思います。

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