[2019_10_18_01]台風・地震・・ダムやため池の危険性(島村英紀2019年10月18日)
 
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台風・地震・・ダムやため池の危険性

 ふだんはダムやため池は水をたたえていて人々の心を和ませる。観光地になっているところも多い。
 だが、いったん決壊すれば、ダムやため池は豹変(ひょうへん)する。多くの人が巻き添えになることも多い。ダムやため池の大量の水が下流を襲うからだ。その原因には豪雨があるし、地震もある。
 2011年の東日本大震災のときの福島県・藤沼ダムにはダムが地震で決壊して大量の水が下流を襲った。長沼地区や滝地区では死者行方不明者8人、流失や全壊した家屋19棟、床上・床下浸水した家屋が55棟という被害を出し、田畑の土壌も多くが流失した。
 また2016年の熊本地震では黒川第1発電所の貯水施設が地震直後に決壊した。大量の水が下の部落を襲って、民家9戸が壊れ、2人がなくなった。
 決壊しないまでも、2018年の西日本豪雨では、愛媛県にある野村ダムと鹿野川ダムの決壊を防ぐために大量の「緊急放流」が行われ、肱川(ひじかわ)が氾濫して8名の死者が出たほか、家屋3000戸が浸水被害を受けるなど大きな被害が出た。
 「緊急放流」は先週末の台風19号の神奈川・城山ダムでも、同ダムとしては初めて行われた。相模原、厚木、海老名、平塚、茅ケ崎、座間など数十万人が住む人口密集地帯での洪水が心配されて避難が始まった。幸い雨が収まったので緊急放流は4時間弱で止められたので被害はなかった。
 ダムだけではない。全国各地にあるため池も同じように大量の水が下の村を襲う可能性が大きい。1854年に起きた巨大地震、安政南海地震では、いまの香川県にあった満濃池(まんのういけ)が決壊した。高さ15メートルを超す大きなダムだった。
 2018年の西日本豪雨でもため池の決壊が相次ぎ、3歳の女児が犠牲になるなど被害が出た。
 ため池が決壊する危険性について、この秋までに会計検査院が、自治体が行う調査方法を調べた。その結果、約4割が新設や改修の際に定められた設計指針よりずっと緩い基準で調査されていたことが分かった。
 新設するときには「200年に1度の豪雨」を想定して設計指針が定められている。だが、昔からあるため池はずっと基準が緩い。たとえば、23府県の約1万カ所のため池の調査結果では、約4000カ所が「50年に1度」など、より緩い基準で自治体が大丈夫だと判定していた。
 その上、会計検査院の今回の調査では調査漏れが多い。規模が小さいことを理由に耐震性が厳密に調べられなかったため池は3000カ所もある。しかも130カ所は人口集中地区にある。被害が大きくなる場所だ。
 地球温暖化で今までにない台風や大雨に襲われ始めているだけに、豪雨の被害もこれから増えるだろう。従来の「50年に1度」の基準では危ない。しかも、全国どこでも、地震に襲われる可能性がある。
 ダムは、大きな災害を引き起こすという問題を抱えている。「治水」が目的のひとつであるダムは、じつは加害者になるかもしれないのである。

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