[2018_12_18_01]社説:原発の輸出 「国策」の見直しが必要(京都新聞2018年12月18日)
 
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社説:原発の輸出 「国策」の見直しが必要

 日立製作所が、英国での原発建設計画を凍結する方向となった。
 3兆円規模に膨らんだ事業への出資企業を確保することが困難で、損失負担の危険性を抑えるめどが立たないためだ。
 原発産業を支えるため政府は原発などインフラ輸出を促し、後押ししてきた。だが福島第1原発事故後、安全規制の強化で建設費が高騰するなど、原発ビジネスのリスクは大きくなっている。
 三菱重工業もトルコでの原発新設を断念する方向だ。これにより「国策」として官民で進めてきた原発輸出の案件はすべて実現できない見通しとなった。安倍晋三政権が掲げた成長戦略の柱は事実上破綻したと言わざるをえない。
 日立は2012年に英の原発事業会社を買収し、海外事業の拡大を目指した。ウェールズ地方に2基を建設する計画で当初は20年代前半の運転開始を見込んでいた。
 だが、巨額の事業費を日英の企業などが出資することや、採算の鍵を握る電力買い取り価格を巡る英側との調整が難航。事業継続が困難と判断した。
 計画では政府系金融機関も融資に加わり、資金面で支援する予定だった。原発産業を守る思惑があるとみられる。福島事故以降、国内では原発の新設が見込めない。経済産業省やメーカー、電力会社は、技術や人材の維持を見据えて海外市場に期待するほかない。
 このため政府は原発輸出を促す原子力協定をベトナムやトルコなど、電力需要が見込まれる新興国と次々に結んできた。17年には核不拡散などの観点から異論もあったインドとも締結した。
 だが巨額の建設費が立地国の財政を圧迫することや原発の安全面が意識され、計画頓挫が相次ぐ。
 12年にリトアニアの国民投票で建設が否決。16年にはベトナムが白紙撤回した。インドも計画具体化には至っていない。
 原発輸出はビジネスであり、民間企業がリスクを負うのは当然だ。だがその一方で、政権と産業界が「国策民営」の形で推進してきた事実を忘れてはならない。
 安倍政権は成長戦略の看板施策が行き詰まっていることを重く受け止め、原発産業の将来像を再検討する必要がある。
 福島事故の原因究明や廃炉作業は道半ばである。事故を起こした日本に果たして原発技術を輸出する資格があるのかとの疑問も根強い。この機会に、エネルギー政策全般について幅広い観点から議論をやり直してはどうか。

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