[2018_08_20_04]社説 原発賠償措置額 引き上げ見送りは無責任(新潟日報2018年8月20日)
 
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社説 原発賠償措置額 引き上げ見送りは無責任

 東京電力福島第1原発事故の教訓をまったく受け止めていないのではないか。
 原発の事故に備える「保険金」を引き上げずに再稼働を進める国と電力会社の姿勢は余りにも無責任に映る。
 原子力損害賠償法の見直しを議論してきた政府の専門部会が、保険や政府補償で賄う最大1200億円の賠償措置額の引き上げを見送る報告書案をまとめた。
 専門部会は引き上げの必要性を指摘したが、政府や電力会社の調整が付かなかった。
 政府は秋の臨時国会に賠償措置額を据え置いた改正法案を提出する方針だ。事故への備えが不十分なままで、原発再稼働だけが進むことになる。
 2019年末で原賠法で定められた賠償の政府補償契約の期間が終わるため、それまでに法改正が必要となっていた。
 原賠法は電力会社に最大1200億円の保険加入や同額の政府補償契約を義務付けし、超える場合は国が必要な援助を行うと規定した。
 福島第1原発事故では、賠償資金は原賠法の枠組みで賄えず、東電を事実上国有化し、国が資金援助する仕組みを窮余の策として整備した。賠償金は7月時点で8兆円超になる。
 事故が起きれば巨額賠償が必要となることが明確となった。このため専門家らから賠償措置額を引き上げるべきだとの意見が出ていた。
 専門部会も引き上げの必要性を再三指摘し、1月に出された報告書の素案では「引き続き検討」とし、調整を促していた。
 ところが、財政出動による世論の反発を恐れる国は政府補償の増額に難色を示した。
 電力業界も電力自由化の競争にさらされ、再稼働に必要な安全対策費がかさむ中、補償料の負担増を嫌った。
 両者の思惑が重なり、最終的に現状維持にとどまったのだ。
 国は原発の利用を今後も続けるのなら事故の備えにどれだけの負担が必要か、きちんと国民に説明しなければならない。
 電力会社も、万一に備える保険金を抑えつつ、事故が起きれば巨額な賠償を生じるリスクを抱えて原発を運転するのは健全経営とは言い難い。
 これでは無保険で車を運転しているようなものだとの指摘もあながち大げさではない。
 事故のつけはドライバーたる電力会社や、推進した政府ではなく、結局、国民に回されることになりはしないか。
 備えができないものは、やめるのが合理的な判断だ。
 報告書案では電力会社の賠償責任に上限を設けない「無限責任」を維持するとした。電力会社が過失の有無にかかわらず賠償責任を負う「無過失責任」も残すべきだとした。被害者保護の観点から当然といえよう。
 とはいえ、将来の事故のリスクから目をそらし、国民の不安を置き去りにしたままの原子力政策では決して理解は得られまい。賠償措置額の据え置きに強く再考を求めたい。

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