[2018_06_18_02]大阪直下地震は次に起こる南海トラフの前兆か_島村英紀(武蔵野学院大学特任教授)(iRONNA2018年6月18日)
 
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大阪直下地震は次に起こる南海トラフの前兆か_島村英紀(武蔵野学院大学特任教授)

 大阪府北部で震度6弱の地震を観測した。朝の通勤ラッシュを襲った地震で都市機能は混乱に陥り、各地で被害が報告された。震源は断層帯のごく近くだったが、やはり気になるのは南海トラフ巨大地震との関連である。今回の直下地震はその前触れなのか。専門家が緊急分析した。

 大阪府北部で最大震度6弱を観測する地震が起きた。地震の規模を示すマグニチュード(M)は6・1で、震源の深さは13キロと浅かった。典型的な直下型地震である。
 都市部を襲った地震だけに、死者を出してしまったブロック塀の倒壊や地下の水道管の破裂など、都会を襲う地震の被害がここでも繰り返されている。
 ところで、日本の都市部の中でも、近畿地方は例外的に活断層がよく見えている地域だ。それに比べて、首都圏では厚い堆積物に覆われていて、地下の岩の割れ目である活断層はほとんど見えない。しかし、どちらの地方でも同じような直下型地震は起きるのである。
 1855年に起こった安政江戸地震は、1995年の阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)以上の、日本で最大の被害を生んだ直下型地震であった。1万人以上が犠牲となったこの地震はM7クラスとい言われ、震源は隅田川の河口付近だと思われている。だが、ここには厚い河川堆積物があって、活断層が見えない。
 三大都市の一つ、名古屋を形作った濃尾平野など、日本の都会のほとんどは厚くて平らな堆積物の上に展開されている。それゆえ活断層は見えない。
 活断層の定義は「地震を起こす地震断層が浅くて地表に見えているもの」である。だから、日本の都会のほとんどの地下には活断層が「ない」ことになる。しかし、実際は活断層が引き起こすのと同じような直下型地震が起きている。つまり、活断層が見えないだけで「ない」わけではないのである。
 今回の大阪北部地震は、大阪平野の北縁にある「有馬−高槻断層帯」の東端に近く、大阪の東部を南北に走る「生駒断層」の北方の延長上にある。つまり、二つの活断層の交点で起きたものだ。
 大阪市の中心部には「上町断層」が南北にあり、生駒断層と並行して走っている。この活断層が地震を起こせば、阪神・淡路大震災並みの被害を生むのではないかと、かねてより恐れられている。
 だが、今回の地震は上町断層ではないところで起きた。上町断層が「近畿地方の次の地震」を起こす断層ではなかったことになる。一つの活断層が大地震を起こすのは、長ければ数万年に一度なので、注目されている活断層が、注視されている間に地震を起こすわけではないのである。
 さらに今回の地震に関連して、怖いことがある。それは、近い将来発生が恐れられている南海トラフ巨大地震の前の「先駆け」として、西日本に直下型地震がいくつか起きることが経験的に知られていることだ。つまり、今回の地震も「先駆け」の一つかもしれないのである。
 南海トラフ巨大地震の「先祖」は、これまで13回発生したことが知られている。だが、地震の規模は1回ごとに異なる。
 一番最近に起きた1944年の東南海地震と1946年の南海地震は、二つ合わせても、「先祖」の中で小ぶりのものだった。「一番近い先祖」が小ぶりだったことは、すなわちこの次に起きる南海トラフ巨大地震の規模がそれよりも大きい可能性が高いということでもある。
 実際、2回前の先祖である1707年に起きた宝永地震は、東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)並みの巨大地震だったことが分かっている。
 その1944年から1946年にかけて発生した「一番近い先祖」の前に、1925年の北但馬地震、1927年の北丹後地震、そして、1943年には鳥取地震が起きていたのである。それぞれ直下型地震で、400〜3000人もの死者を出していた。そのあとに、東南海地震と南海地震が襲ってきたのである。
 では、巨大な海溝型地震である南海トラフ巨大地震の前に、なぜ西日本で直下型地震が多く起きるだろうか。実は、地震学的には解明されていない。ただ、経験的に今まで起きてきた以上、無視するわけにはいかない。
 今回の大阪北部の地震に限らず、近年、西日本では直下型地震がいくつか起きている。2013年4月には淡路島でM6・3の直下型地震が起き、住宅の一部損壊が2000棟以上にのぼったほか、液状化により施設が壊れたり、水道管破損による断水が起きた。
 また、2015年2月には徳島県南部でM5・0の直下型地震が起きた。この地域は近年、地震が少ないところだけに余計注目を集める結果となった。
 淡路島の地震と徳島の地震は幸いマグニチュードが小さかったので被害も少なかったが、もっと大きな地震が起きていたら、より甚大な被害をもたらしたに違いない。
 もし、数年あるいは十数年以内に南海トラフ巨大地震が起きれば、阪神・淡路大震災も、南海トラフ巨大地震の「先駆け」の直下型地震として数えられるかもしれない。
 阪神・淡路大震災の半年後に起こり、同じM7・3だった鳥取県西部地震も、同じように数えられるに違いない。それほど、南海トラフ地震が放出するエネルギーは巨大なものであることを忘れてはならない。


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