[2017_12_14_01]社説 伊方差し止め 福島事故風化への警鐘だ(新潟日報2017年12月14日)
 
参照元
社説 伊方差し止め 福島事故風化への警鐘だ

 住民の命や暮らしを守るためには、どのような「想定外」も許されない。それが、東京電力福島第1原発事故が突き付けた教訓である。
 福島事故の風化が懸念される中、原発の安全確保の徹底を求め、安易な再稼働を戒める重みのある司法の判断といえよう。国や電力会社は真摯(しんし)に受け止めなければならない。
 広島高裁は、愛媛県伊方町にある四国電力伊方原発3号機について運転を差し止める仮処分を決定した。
 決定は直ちに効力を持つ。対象期間は来年9月30日までだ。3号機は定期検査中で来年1月の稼働再開を目指していたが、事実上不可能となった。四国電力は異議申し立てなどを行う。
 仮処分は広島市の住民らが申し立てたものだ。広島地裁はことし3月に仮処分を認めない決定を下し、住民側が高裁へ即時抗告していた。地裁の決定が覆ったことになる。
 注目したいのは、福島事故以降、高裁段階で原発の再稼働や運転を禁じる初めての司法判断が示されたことである。その意味でも、今回の決定が持つ意義は大きい。
 主な争点は、原発の耐震設計の目安となる基準地震動で電力側が出した結果の合理性、福島事故後に原子力規制委員会が策定した新規制基準による審査の在り方、近隣の火山噴火による危険性などだった。
 野々上友之裁判長は、原発が熊本県の阿蘇カルデラから130キロに立地していることを重視し、「火砕流が到達する可能性が小さいとは評価できず、立地には適さない」とした。
 火山の危険性に関して新規制基準に適合するとした規制委の判断は不合理と指摘し、「住民らの生命、身体に対する具体的な危険の恐れが推定される」と結論付けた。
 火山以外については新基準の合理性などを認めた適合性判断も妥当としたものの、「火山噴火と原発」の問題が改めてクローズアップされたといえる。
 伊方3号機の運転差し止めでもう一つ注視したいのは、立地県から離れた広島市の住民が申し立てたことだ。
 伊方原発3号機の仮処分は、広島地裁に加え、大分地裁、山口地裁岩国支部と立地県以外でも申し立てられた。事故による広域被害への心配から起こされたものだ。
 福井県高浜町の関西電力高浜原発3、4号機の運転を禁じた昨年3月の大津地裁決定も広域被害の恐れを指摘し、立地県外の住民の主張を認めた。
 福島事故は、原発の過酷事故が広域的な混乱を生み、風評被害など立地地域や立地県以外にも大きな影響を及ぼすことを明らかにした。
 それを踏まえれば広域被害への懸念は当然だ。国や電力会社は、不安にきちんと向き合うことが不可欠である。
 来春、未曽有の原発事故から7年になる。「福島」を風化させない−。その大切さを、もう一度胸に刻みたい。

KEY_WORD:IKATA_:TAKAHAMA_: